- 公開:2013/01/01
- 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
- 出演者:ジェフリー・ラッシュ, ジム・スタージェス, シルヴィア・フークス
- 製作国:イタリア
- 上映時間:2時間11分
鑑定士と顔のない依頼人という映画をご存じでしょうか?2013年公開のこの映画は、イタリアのミステリー映画です。
実はこの映画、評価が非常に分かれている映画でして、表面的で陳腐な映画と評されることもあれば、作品賞・監督賞・美術監督賞・衣装賞・音楽賞とダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の数々を受賞したりしてもいます。
僕の友人はこの映画を「本当に面白いから観て!」とハードルをあげてオススメしてきたのですが、その時に「絶対にネタバレ無しで観て!」と念を押してきました。
言われた通り一度目は普通に何も調べずに観てみました。そしてその理由がわかりました。
僕のオススメの方法は、一度目は普通に、二度目はラストを知ってからもう一度、三度目はAmazonやブログのレビューを読んでから観るのが、映画『鑑定士と顔のない依頼人』を100%楽しむ方法だと思います!
それではレビューいってみましょう。
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映画『鑑定士と顔のない依頼人』 – ストーリー
公開日:2013年01月01日
ジャンル:犯罪映画, ヒューマンドラマ映画, ミステリー映画
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ, ジム・スタージェス, シルヴィア・フークス
ネタバレ注意『鑑定士と顔のない依頼人』のあらすじまとめ
「当店一同よりお誕生日のお祝いを。今年ご用意しましたのはルネッサンス風ケーキです。クリームとビターアーモンド。お楽しみください」
手袋を外さないまま食事をしているヴァージル・オールドマンの前に出されたのは長いローソクが立てられたケーキである。
彼はそのケーキを眺めたまま動かなかった。ローソクは次第に短くなっていき、ケーキの表面近くで火を揺らす。
「お口にあいませんか?」心配そうに見ていたレストランの支配人が声をかける。
「とんでもない。だが、誕生日は明日だ。まだ夜の10時35分。私は迷信家でね。気持ちだけ頂こう」そう言って立ち上がり、レストランを去った。ローソクの火は淋しそうに燃え尽きた。
少し変わった性格のヴァージルだが、一度オークションの壇上に立てば、テキパキと高級な芸術品などをさばきハンマーを叩く。彼は偽物と本物を瞬時に見分ける事が出来る程の天才的な鑑定眼を持つ初老のオークショニアなのだ。
また、美術品をさばきながら、自身でも仲間のビリーとグルになり落札し、女性の肖像画だけをコレクションしていた。彼の唯一の楽しみは沢山の女性の絵に囲まれた隠し部屋で時間を過ごすことである。絵の中の女性に恋をしていると言っても過言ではない。
そんな彼に、仕事の打ち合わせの最中、一本の電話が入る。秘書はその電話をとらず、「ご自分で出るべきです」とヴァージルに助言する。お誕生日の最初の電話です、と。
「幸運を呼ぶ」ヴァージルはそう言って電話を取る。
「クレア・イベットソンです。切らないで」やや落ち着かない様子の女性の声がする。「両親が遺したヴィラの家具のことで。価値のある物ばかりと聞いています。とても希少な家具や絵画があります」
まとまらない喋り方ながらも、ヴァージルは話を聞き、彼女の家に行って、家具などを査定することになった。本来は査定などのような仕事は助手に任せるものなのだが、彼女の父親の遺言で、「すべてを売る場合はヴァージル・オールドマン氏に託せ、最高の競売人だから」と言われたそうで、絶対にヴァージル本人でなければならないらしい。
渋々ヴァージルは家に赴くが門は固く閉ざされ表札もない。家の壁は荒んだ色をしている。時間になってもなんの連絡もなく、門にさいなまれ家の扉を叩くことも出来ない。そのうち雨も降ってきたので仕方なく帰ることにした。
オフィスに戻ると電話が鳴る。相手はクレアだ。
「この仕事をやってきて36年間、雨の中私を40分も待たせた者はいない!許しがたい無礼な行為だ!!二度とかけてくるな!」ヴァージルは怒りを表し電話を切る。
再びかけて来た電話で秘書はその理由を聞き、ヴァージルに取り次ぐ。車にひかれてしまったのだと。携帯電話を持たないヴァージルに連絡も出来なかったと。その理由に仕方なく理解を示したヴァージルは再び家に訪れる。
今度は固く閉ざされた門を管理人が開けてくれたが、当のクレアは夜中に熱が出てしまったと伝えられる。ヴァージルはまたも無駄足だったと帰ろうとするが、管理人が「自由に査定を進めてもらって結構だそうです」と伝えると苦々しくも家の方に足を向ける。
管理人とともに家の中に入るが、まるで人が住んでる様子はない。蜘蛛の巣は張り巡らされ、空気も淀んでいる。それなりの調度品が並んではいるが、どうも目を見張るものはなさそうだ。口にハンカチを当てながら、広い部屋の中を歩き回る。
…と、床に錆びた歯車が落ちているのを見つける。こ、これは。
管理人の目を盗み素早くそれをポケットに入れ、ヴァージルはその家を後にした。
向かった先はロバートという若者がやっている修理工。彼は少しの部品から元の製品を再現できる腕を持っていた。
「美術の専門家がこんな鉄材に興味を持つとは」ロバートは興味深そうに歯車を観察しながら言った。
「物体そのものではなく、“矛盾”に心惹かれたのだ」とヴァージルは言う。ほんの些細なサビからこの歯車が大変価値のあるものの部品だと見極めたのだ。
ヴァージルは自分のオフィスに帰り、再びクレアと電話で会話をする。
二度もヴァージルの前に現れなかった事に苦言を呈したが、今度こそは約束するとクレアは言う。
多くの業者を連れ、家に向かう。しかしまたもやクレアは時間になっても現れない。業を煮やしたヴァージルは管理人に文句を言うと、管理人の携帯電話にクレアが連絡をしてきた。
「愚かな女の“亡霊”とは仕事したくない!」開口一番、ヴァージルは叫ぶ。
「車が盗まれ警察へ通報しに行ったの」クレアの必死の返答があったが、おかしな事に、同時にヴァージルが喋る場所の環境音が聞こえる。
「ここにいるのか?いるんだな?いるなら出てこい!不愉快な小細工の説明をしたまえ」電話で怒鳴りながら家中を探し回るヴァージル。しかし彼女は見つからない。
姿を現さない理由がわからず混乱するも、家から見つかる歯車の魅力に心を奪われている彼は、彼女を探すことを諦め、新しい歯車を見つけ再びロバートの元へ向かう。
新たな歯車を見て、18世紀のものだとテンションを上げる二人。
ヴァージルは管理人からクレアがとても奇妙な病気だと知らされる。管理人自体も11年間彼女を見たことが無いのだと。それを聞いたヴァージルは再びクレアと電話で話すが、一方的に今回の契約はおしまいだと告げられ電話を切られてしまう。
がっかりともすっきりとも取れないヴァージルだったが、修理工のロバートの所で歯車の正体はヴァージルが若い頃、論文を書いた程大ファンだった18世紀の技工士の作品である事を知った。ロバートはさらなる部品を持ってきてくれれば必ず自分が再生してみせると意気込んでいたが、ヴァージルは残りの部品を手に入れるチャンスは失ったと残念そうに告げた。
…が、そんな時クレアからまたもや電話がかかってくる。2時半に会いたいとのことだ。やれやれ、一体何なのだ。
その指示に従い、ヴァージルは家へ向かう。誰もいない家の中でどこからか声が聴こえてくる。声をたよりに歩いていくと、一枚の壁の先から聴こえてくる事がわかった。隠し部屋があるのだ。
「15歳から外へ出てないの」
「12年間、外を歩いてないと信じろと?」
「あなたはなぜいつも手袋してるの?他人に触れるのが怖い。持ち物にも嫌悪感が。私は他人がいる場所が怖い。あなたも私も似た者同士よ。どうか理解して」
ヴァージルはクレアの話に耳を傾けながら周りを見回す。するとそこに歯車の新しい部品が落ちている事を発見する。
「わかった」
ヴァージルは再び、クレアの依頼を引き受けることに決めた。
そこから何度もヴァージルはクレアの元へ足を運び、壁越しに会話をすることになる。壁に小さな穴が空いており、どうやらそこからこちらを覗いているらしい。穴越しに目が合ったが彼女は怯えて罵倒してくる。その言葉に反応し、ついついヴァージルもきつい言葉を言っては立ち去るのだが、歯車の事を思うとやはりこの家に来てしまう。
事態は彼女の契約書を書くためにパスポートを見せてもらった時から変わっていくことになる。そこにはヴァージルの心を奪うほどの美女の写真があったのだ。古い写真ではあったが。
そこからヴァージルはクレア自身に興味を持つようになり、髪を染めている人間は信用出来ないと言われれば、白髪染めを落としに美容院へ行き、クレアと連絡が取りやすいように、あれほど嫌っていた携帯電話も持つようになった。
さらには新しい歯車を見つけてはロバートの元へ持っていくのだが、そこで友人の話と偽って、クレアの心の開き方を相談するようになった。ロバートの元へ行く度に違う女性が親しげに話しているのを見ていたヴァージルはロバートが女性の扱いに長けているのを知っていたのだ。
クレアの家の家具の査定が進む一方で、歯車の部品集めも捗るようになり、その度にロバートの元へ行き、18世紀のオートマタの再生の話を進めていくのだが、徐々に話の比率がクレアの事ばかりになっていく。ロバートはヴァージルの話が友人の話ではなく本人の話だと薄々気がついてはいるのだが、茶化すこともせず優しく助言する。
「“安心しろ”と言ってやれ。2人の歯車はもう動き出したから」
「私の友人が成功するほうが、オートマタの復元より難しいのか…」
「持ってくるサビた部品の数によるさ」
ロバートの助言により、ヴァージルは徐々にクレアとの距離を縮めていく。家具の査定を進めながらも、すべてを処分した後の自分の将来を相談するクレア。家を売り払って別の世界を見てみたいと切望するも、そう出来ない自身の病気。ヴァージルは彼女の相談に乗りながら、徐々に彼女に惹かれていくのを感じていた。
そして、何度目かの訪問の時である。
いつものように査定の相談を終え、それではまたと部屋を後にするヴァージルだったが、開いたドアを外には出ずに閉めた。足音を立てずに彫刻の後ろに隠れる。扉が閉まる音を聞き、彼が帰ったと思ったクレアは周りに警戒しながら姿を表す。扉に鍵をかけた所でようやく安心したクレアは緊張を解きストレッチをした。
その姿はまさに絶世の美女そのもの。息を呑むのも忘れる程。見つかる前になんとか部屋から出なければならないヴァージルは準備していた携帯電話で彼女に電話をかける。コール音が隠し部屋から鳴ったのを聞いたクレアは急いでそれを取りに行く。その隙にヴァージルは部屋から逃げ出す。
女性の肖像画にしか興味がなかったヴァージル。そんな彼は今、生身の女性に恋をしたのである。
しかし、今まで恋などしたことがなかったヴァージルにとって、簡単に事は進まない。彼女の行動ひとつひとつに対してどうしていいのかわからないのだ。相変わらず彼女の家から歯車を拾ってはロバートの所へ持っていくヴァージル。
徐々にそのパーツは整っていき、オートマタはその姿を着実に再生しつつあった。喜びを露わにするロバートとは対象的に、ヴァージルは喜ぶというよりも落ち込んでいた。彼の感心は完全に美術品よりもクレアに移ってしまっていた。
そんなヴァージルの姿を見て、真剣に相談に乗るロバート。
「私にとって女性への敬意は恐怖に等しい。女性を理解できないのだ」
「彼女の姿を見たことは?」
「一度だけ」
「どんな女だ?」
「誰かに興味を抱いたら、その人物のすべてが美しく思えるものだよ。2日後は誕生日だ。役に立つ物を贈りたい」
「“役に立つ”はイマイチだな。最初はもっと王道の贈り物がいい」
このアドバイスを聞き、バラの花束を持ってクレアの家に向かうヴァージル。しかし、彼女は壁越しに査定額が安すぎると文句をつけて来た。その言葉を聞き、ヴァージルもキレて花束を投げつけて立ち去ってしまう。
淋しそうにいつものレストランで食事をするヴァージル。そんな彼のもとにクレアから電話がかかってくる。クレアは謝罪の言葉を述べ、ヴァージルも謝罪する。こんな感じで二人は離れてはくっつき離れてはくっつきを繰り返しながら徐々に距離を近づけていった。そしてある事件をきっかけにクレアは部屋から抜け出し、ヴァージルの目の前に現れるようになる。
ロバートの助言を頼りに、クレアとの恋仲を深めていくが、ある日彼女は突然姿を消す。どこを探しても見つからない。ヴァージルは心配で頭も回らなくなり、仕事も失敗してしまう。心配になった仕事仲間のビリーはヴァージルの話を聞くが、どうやらヴァージルはロバートが怪しいのでは?と疑っている。
美術品に関しては一流の鑑定士であるヴァージルは、人間の嘘と本当を見分けることが出来るのであろうか…。
『鑑定士と顔のない依頼人』の名言
失った信頼を取り戻すためならムダ骨だ。元々失ってなどいない。
いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む。
人間の感情は芸術品と同じ。偽造できる。まるで本物に見える。だが偽りだ。
芸術品の贋作に本物が潜むなら、偽りの愛にも真実が。
『鑑定士と顔のない依頼人』のおすすめポイント
・俗に言う、どんでん返し系の映画ではあるのですが、伏線の張り方がかなり地味なモノが多い為、一度観ただけでは気がつかないものがほとんど。ただ、それがこの映画を面白くしている所であり、何度も繰り返し観る楽しみを生み出していると思います。
・どんでん返しではあるけれど、言うほど奇抜ではなく、観ている途中で結末がわかってしまう人も中にはいるでしょう。ですが、一応その結末に到着するまでに別の結末を想像させるミスリード的な仕掛けも用意されているのもミソです。
・結末の後味の悪さだけで評価している人もいないわけではないが、何度も繰り返し観ることで「あれ?これって実はバッドエンドではないのでは?」と思えてくるようなどっちともとれるラストが結構気に入っています。
・抜群に面白かったわけではないですが、繰り返し観て楽しめるという特徴を持つ映画でした。
圧倒的絶望感だけでは終わらない映画の素晴らしさ!
どんでん返しものが大好きだ。「どんでん返しがないものはすべて駄作!!」…とか思っていた時期がある程で。
ただ、そういう作品とかばっかり観ていると、だんだん先を想像しながら観るようになってしまうんですよね。「どうせこうなるんだろ?」「あぁ、もしかしてこのセリフは伏線なのかも?」「知ってた。こうなるの、もう途中から知ってた!」…みたいな。
そうなってくると、自分の想定を越えてきた作品が良作、想像通りの作品が駄作ということになってきてしまう。どれだけ裏切ってくれるかだけがその作品を評価する指針になっちゃうんです。
そう言った意味で言うと、この作品はある程度途中の段階でラストが読める側の作品、つまりそれほどデカすぎるどんでん返しではないので、駄作ということになるわけですが、そうではありません。
この作品の魅力は、主人公の心情の変化。主に、どんでん返しが起きた後の主人公の心情にあると思うのです。
つまり、ラスト5分間にこの映画の楽しみ方がぎゅっと詰まっている!!この5分間でお酒を交えながら友人と3時間は語れると思いますね、僕は。
童貞老人の結末…
正直な話、視聴者からすると、ラスト一歩手前で騙されてしまう場面は、あっ!と驚くようなどんでん返しではないのですが、それを経験している主人公としては、幸せの絶頂から一気に奈落の底に落とされたような経験に違いありません。
ましてや、この映画の主人公は天才と呼ばれる程の才能を持ちながら、恋愛方面には全く目を向けずに来た童貞の老人。絵の中の女性にだけ惚れ込み、現実の女性には興味がなかった老人なのです。童貞の。
はい。ここがポイント。童貞の老人なのです。
その老人が最初は姿を見せぬ依頼人にイライラしつつ、何度も依頼を断ろうとしながらも、依頼人の家に伝説級の骨董品を見つけてしまったが為に断ることも出来ず、依頼人と連絡を取り続ける。鑑定士としての知識がその依頼から手を引かせてくれなかったのです。
…が、しかし、物語の途中からそんな骨董品なぞはどこ吹く風、あまりにも姿を見せぬ依頼人の方に興味心を惹かれてしまいます。まぁ、それはたとえ天才的な鑑定士じゃなかったとしても興味を持つなと言われる方が難しいでしょう。
人間はみな謎に惹かれるものです。
なぜ、彼女は姿を見せないのか。なぜ、何度も断っても彼女は連絡を取り続けてくるのか。彼女の豹変ぶりにカッとなりながらも、一体彼女はどんな人間なのか。その方に興味を持って行かれてしまいます。
導入なんてどうでもいい。価値のあるモノよりも謎のあるモノに惹かれる。だから主人公は彼女を盗み見したくなってしまう。そして、実際そうしてしまうのです。
あぁ。なんてキレイな女性なんだ。
絵の中の女性にしか興味がなかった主人公の中に現実世界の女性が住みつきます。観てはいけない女性を観て恋をする。平安時代かよ!って心が叫んでいました。
今まで興味がなかった事に興味を持ってしまった時、人間の情熱というものは燃え上がるもの。あぁ。自分の知らなかった世界がこんなに素晴らしいなんて。
ここらへんから視聴者は、あぁ、どうせこの後どん底に落とされるんだろ?と想像し始めると思います。
じゃなかったとしたら、映画としてあまりにもストーリーがなさすぎる。まぁ、そういうのもありっちゃありですが、この映画はあくまでもミステリーですので、女性が姿を現さなかった理由を持たせる為にはね、このままじゃ行けないわけです。
童貞のおじいちゃんが若い女性にメロメロ。女性の方も次第に心を開いていき、おじいちゃんのおかげで、あたし、変われるの!!ってな具合。あたしを生まれ変わらせてくれたあなたをあたし愛してる。
おじいちゃん、人生初の夜。童貞を捨てる。
あぁ。なんて素敵なんだ。女性を抱くことがこんなにも素晴らしいなんて。
…誰もが童貞を捨てた後、しばらくはその瞬間を忘れられずにいるもの。何度も思い返し、あの瞬間は永遠だとさえ錯覚する。初めての相手は忘れない。永遠に刻まれる。
女性が生まれ変わったのであれば、わしも生まれ変わってもいいんじゃないか。
今まで、天才鑑定士として人生を過ごしてきたが、その生活に終止符をうち、彼女と一緒に暮らそう。
まさに童貞的思考!ついにたどり着いたのだ!真実の愛に!
…そんな童貞心を利用され全てを失うというのが今回の映画の内容。あまりにも後味が悪いので、レビューの中には酷評も垣間見えました。
しかし、忘れてはならない。この映画の主人公は天才的な鑑定士なのだ!
もちろん、この考えに至るまでに天才鑑定士である彼は何度も本物か偽物か、彼女の行動の真意は?などなど何度も考えています。
時には、相談にのってくれているロバートのことさえ疑う。彼女の愛を疑う。
美術品ならば一瞬で本物か偽物か判断できる彼でも、経験のない恋愛に関してはわからない。わからないけれど、本物か偽物かを判断しなければならないという習性は体に染み付いている。
ここでポイントなのは彼の持論。
「いかなる贋作の中にも必ず本物が潜む」
です。
どんな本物に偽たコピーであっても、コピーをした人間はアイデンティティを残したがるものなのだという所です。つまり、たとえそれが嘘の演技だとしても、そこに本物の愛が隠れているとかいうすげー理論。
実際、ヴァージルが集めていた女性の肖像画は本物だけではなく、贋作にも手を出しています。そこに内なる神秘性があるかどうかがヴァージルの価値基準なのです。
つまり、僕ら一般人にはただ騙されて終わったように見えるラストも、ヴァージルにとっては、内なる神秘性でしかないのです。たとえ作られた偽物の人格であっても、私に見せた一瞬の愛情は本物だったのかもしれない。
そう信じられる絶望100%ではない状況、1%の望みが残されている状況で映画が終わっている所が、この映画を観る人によってバッドエンドにもハッピーエンドにもなり得る作品にしているんだなぁと思いました。
ヴァージルにとって、すべての絵は彼女に出会うための準備でしかない。彼女さえ戻ってきてくれれば、それでいいのです。
まぁ、見方によっては騙されたのにそれを受け入れられないただの愚か者という解釈もできなくはないのですが、それは人それぞれの自由です
この自由度が『鑑定士と顔のない依頼人』を面白くしている!
この映画、この記事を書くために何度も繰り返し観たのですが、その度に新しい発見があります。
一度目より二度目、二度目より三度目の方が面白くなっているのです。それだけ結構細かい所まで作り込まれているわけですが、多分、一人で観ててもその全部は把握しきれません。人によって注目点、考え方、感じ方が違うから多数の発見が生まれてくる。
そこでAmazonのレビューやブログの登場です。
結構話題になったらしくレビューが無数に存在します。そのレビューを読むと、え?そうなの!?と思うことが沢山。実際に確認してみると、あ!!本当だ!!気が付かなかったわ!という驚きがあるのです。
まぁ、一番簡単な所で言うと、ビリーが首謀者だという所でしょう。
僕は最初、クレアがヴァージルを騙すだけの話だと思ってました。結末を知ってから、うわー!ロバートが計画を立ててたのかよ!とか驚いたわけですが、さらにレビューを観てみると、実はそうではなくて、オークションでグルになっていたビリーが首謀者だという書き込みが。
再び映画を巻き戻してみると、たしかに、ビリーに対してヴァージルはひどいこと言ってるシーンがあるし、恨まれてたんだな。このシーンはそのためのものだったのか!と新しい発見がありました。
さらに深読みしている人もいて、何度も出てくるカフェの人たち。その人達は一体どっちなのか。この人達もヴァージルを騙しているのでは?と考察していたり。確かに、もしこのカフェの人たちもグルだったらさらに話は悲しい事になるわけですが、その可能性が無いとも言えない。
この映画に出てくる人すべてが騙す側の人間で、助手が持ってきた手紙ですら嘘だったら…。
などなど、一つの映画でこんなにも多数の解釈があるんだなぁ〜、おもしろいなぁ〜と感じました。
役者さんの目線ひとつでも論じている人もいて、すげー着眼点!と感心すら覚えたほどです。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』 – まとめ
いやー、久しぶりのブログ更新でしたが、結構熱く書きました。映画って、一度観るの辞めちゃうと観ることが億劫になりがちな僕なんですが、久々に見た映画が『鑑定士と顔のない依頼人』で良かったなって思いました。
友人が言ってたほどの点数はあげられないんですが、それでも充分すぎる程魅力を持った映画だと思います。
なので、もしあなたがこの映画を観たことがなかったのであれば、もうレビューを読んじゃってアレだとは思うんですが、一度でっかいハンマーかなんかで後頭部をコンコンと叩いて記憶を消して頂いて、なんの前情報もなしに映画を一度観て、結末を知った後でもう一度確認の為に観て、それからレビューを読んで三度、四度と繰り返し観てもらえると楽しめると思います。
まぁ、オークションの話ですし、ハンマーつながりでパコーンと。
はい。
ではでは、『鑑定士と顔のない依頼人』でした。
あ、僕の個人的に好きだった伏線はロバートを訪ねてくる女性がおばあちゃんを探すためにGPS発信機を修理してもらってた所です。それがただのロバートもてもてやん!っていうシーンだと思っていたんですが、後々確認してみるとちゃんとおばあちゃんが迷子になっている事に意味があったっていうね。
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鑑定士と顔のない依頼人 - 感想・評価
公開日:2013年01月01日
ジャンル:犯罪映画, ヒューマンドラマ映画, ミステリー映画
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリー・ラッシュ, ジム・スタージェス, シルヴィア・フークス