父親たちの星条旗という映画をご存じでしょうか?2006年公開のクリント・イーストウッド監督の作品なのですが、この映画はちょっと特殊です。
太平洋戦争で最も野蛮で高価な戦いと呼ばれた「硫黄島の戦い」を扱った映画なのですが、クリント・イーストウッド監督は日本とアメリカの双方の視点から二つの作品を作り出したのです。
日本側視点で描かれた『硫黄島からの手紙』とアメリカ側視点から描かれた『父親たちの星条旗』。
今回扱うのは『父親たちの星条旗』なのですが、正直、ここにレビューを書いて良いのか迷ってしまいました。
それはこの映画があまりにも“戦争”というものに対して善悪を抜きにして語っているからであり、冒頭の部分でもそう釘を刺しているからです。
僕は戦争を体験もしていないし、戦争は悪いものだと教わり、何の疑いもなくその価値観を信じていました。
だから、戦争を悪だと語っていないこの映画を観て戸惑いを感じたのです。
そんな僕がこの映画の良し悪しを語っていいのだろうか。レビューという名目を借りて点数をつけて良いのだろうか。
と、迷いました。
しかし、この映画で扱った硫黄島の戦いを調べていくうちに、
「これは作品なのだ。一人の人間が戦争を語ろうとして生み出した作品であり、この作品を肯定したり否定する事は戦争を肯定したり否定するものではない。アメリカを賞賛するものでも日本を侮辱するものでもないのだ」
そう考えるようになりました。
このレビューを観て心を悪くしてしまう人もいると思いますが、悪意はありません。
戦争を、戦争に参加した人を、侮辱するものでもありません。
純粋に映画としての作品の評価をしているものなのだとご理解くださいませ。
これはカメラを通して語った物語であり、カメラが終われば死んだ人間は死んだ演技を終え、普通に生活しているのだ。そう言い聞かせて、戦争を語るのではなく映画を語るように気をつけたいと思います。
他にも戦争映画は観てきたつもりですが、他の映画とは一線を画する映画の作り方だった映画『父親たちの星条旗』のレビューをしていくことにしましょう。
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映画『父親たちの星条旗』 – ストーリー
公開日:2006年10月21日
ジャンル:アクション映画, 冒険映画, ヒューマンドラマ映画, 歴史映画, 戦争映画
監督:クリント・イーストウッド
出演:ライアン・フィリップ, バリー・ペッパー, ジョセフ・クロス
長い人生が終わろうとしている老人ドク。1945年、衛生兵として硫黄島の戦いに参加し1枚の写真に撮られた事で彼は英雄扱いされた過去があった。しかし彼は戦後家族を持った後にも硫黄島の戦いのこと、アメリカ中で有名になった写真ことは決して語らなかった。死に面して初めて息子のジェームズに語られる硫黄島の戦いの真実…
もし、あなたにそば屋で『父親たちの星条旗』ってどんな映画?あらすじとか評判は?と聞かれたなら…
この映画は一言で言えば、“アメリカ視点で描いた硫黄島の戦いとその真実”なんだ。
クリント・イーストウッドの硫黄島プロジェクトの片割れで、日本視点で描かれた映画『硫黄島からの手紙』とセットで観ろというのが定説みたいなんだが、とりあえず僕は先に『父親たちの星条旗』の方を観た。
2時間12分の映画なんだけどね、正直な所を言うと観ていてちょっと疲れてしもうた…。
戦争映画で心が痛いという面と、時間軸があっちこっちに行くから状況を把握するのに苦労するという面と。
でもその作り方があったから他の戦争映画とは違うメッセージの伝え方をしてきたと思う映画なんだわ。
戦争映画で今までで一番衝撃的だったのは『プライベート・ライアン』なんだけど、あれは第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦を切り取って3時間の映画の中でその悲惨さを伝えるっていう作り方だと思う。
その生々しさがスゴくて、戦争は悪だ!絶対にダメだ!っていう印象がスゴく残ったんだよ。
でも、この映画はさ、戦時中の戦場・戦時中の都市部・戦後・現在っていう場面転換を頻繁に繰り返すから、悲惨なシーンもあるっちゃあるんだけど、伝えようとしているのはそういうことじゃなくて…っていう感じがしたんだよね。
そしてまず初めに「戦争を分かった気でいるやつはバカだ」ってフルスイングで僕の頭の中の戦争に対する考え方をぶっ壊してくるの。
マジで衝撃的だった。『プライベート・ライアン』で感じた「戦争は悪だ!」っていうのをぶっ壊されたから。
学校の歴史の教科書で教えてくれるのはさ、どっちが先に仕掛けただの、お国のために戦っただの、勝てば官軍負ければ賊軍だの“善悪”で戦争を捉える感じだと思うんだ。
でもそうじゃねーんだよこの野郎!っていうのがこの映画のテーマだと思う。
あらすじを話すと、戦争の夢を見て今でもうなされるおじいちゃんというシーンから始まる。
そのおじいちゃんが病で倒れて、現実と戦時中の事がごっちゃになって病院に運ばれる。
そこで今までずっと聞かされなかった硫黄島の戦いの話を息子ジェームズが聞くという枠で話が進むのね。
ただ、ここもまた時間軸がズレて、おじいちゃんだけの話じゃなくて、その話を聞いて興味を持った息子が他の戦争体験者からも話を聞いているシーンが割り込んでくる。
だから、そういうシーンの切り貼り的な撮り方してるんだなってのは是非最初に頭に入れておいてからこの映画を見たほうがわかりやすいと思う。
「戦場の実態というのは想像を絶するほど残酷なものだ。だが正当化しないと。分かりやすい事実が必要だ。言葉などなくてもいい」
そう言って一枚の写真の話をするの。歴史的にも
有名な星条旗のやつ。
この写真を見てどう思う?戦争で戦って得た領地に自分たちの旗をあげているように見えるじゃん。
言ってみれば戦時中にこれを見た人は「戦況は私達の国が有利なんだわ!この旗を立てている人は命をかけて戦って、まさにこの国の英雄だわ!」って思うじゃん。
ベトナム戦争でも写真一枚で負けたっていうぐらい、写真の存在は大きい。れが分かりやすい事実。言葉などなくても写真一枚あればわかるってやつ。
実際、この写真に写っている6人のうち3人は戦死しちゃったけど残りの3人は戦場から帰還させられて国の英雄として米国中を回って、破産寸前で疲れ切っていた戦時中の国民を鼓舞する役割を担ったわけ。
その旗を持っていた3人のうちの一人が最初のおじいちゃん。
ジェームズの父ドグは英雄として扱われた。
…でも、事実はそうじゃねーんだ。っていう話。だからドクは息子にも家族にも写真の話や硫黄島の戦いの話をしなかった。
そこからは国はこの写真を利用して、国民に国債を買わせる為に写真を利用して英雄3人を連れ回す話と、事実はそうじゃない事に苦悩する3人という形で話が広がっていくわけなんだが、あらすじは短いけどこんな感じかな。
…結構ね、グロテスクな描写とかあるんだけどそういうのダメならつらい映像が多い。
ただ、生々しさだけで言えば、よくよくこの映画と比較される『プライベート・ライアン』の最初の20分の方がショッキングだとは思った。
この映画はちょっと作り物感がわかってしまうし、CGだなってのがわかる。
艦隊とか海、兵隊一部はCGで作られているらしいんだけど。
でもシーン別で言えば『プライベート・ライアン』よりもショッキングなものが多い気がしたなぁ。
船から落ちた兵士を拾わずに船が進んでいって運命共同体じゃないのか…とつぶやくシーンとか、味方に撃たれたと言って死んでいくシーンとか。
ネイティブ・アメリカンに対する冷遇とか。国籍を買おうっていう歌とか。
戦場に出ている人間と町で待っている人間の戦争に対する温度差とか。死んでる人間を何度も銃剣で刺している仲間の背中をゾッとした目で見ているシーンとか。
親と会うためにヒッチハイクをしている姿とか…。
この映画自体がシーンの切り貼りしている作り方だからなのかもしれないけど、心にグサっとくるシーンが他ジャンルに散りばめられている。
時にはイライラしたり、え?なんで?と思う事もあるけど、それが戦争を知らない僕らが戦争をわかっているつもりでもわかっていないバカだと言われてしまういわれなのかと。れらすべてを通して、戦争の異常さが伝わってくる。
『父親たちの星条旗』と『プライベート・ライアン』どちらも違ったアプローチで戦争について訴えてくる映画だから、どちらが良いってわけではなく、どちらも観てみて色々と戦争について色んな角度から考えるのが必要だと思うな。
あとはアレだ。アメリカ視点で描かれた映画で、日本人の目線からみると…的なレビューあったけど、僕はあんまりそういうのは感じなかったな。
アメリカ万歳な映画の作り方はしてないと思う。
どちらかというとそういう常識に疑問を投げかけている感じの作り方だと思った。
…そんな事を『父親たちの星条旗』についておしぼりをたたみながらそば屋で話すと思います。
『父親たちの星条旗』の名言・心をざわつかせた言葉
戦争を分かった気でいるやつはバカだ。特に戦場を知らぬ者に多い。皆単純に考えたがる。“善 対 悪”“ヒーロー 対 悪者”どちらも大勢いる。だが実際は我々の思うようなものではない。
政治家と役者はこの世で一番ケチな人種だ。
クソッタレ、旗は大隊みんなの物だ。大勢の命に替えて島を奪ったのは政治家の見栄のためか?ふざけるなってんだ。
大勢の仲間が死んだ。誰かの命を救えば確かに英雄だが、彼らは旗を揚げただけだ。
私が戦場で見たことややったことは、誇れるものじゃありません。
英雄とは人間が必要にかられて作るものだ。そうでもしないと命を犠牲にする行為は理解しがたいからだ。だが父と戦友たちが危険を冒し傷を負ったのは仲間のためだ。国のための戦いでも死ぬのは友のため。共に戦った男たちのためだ。彼らの栄誉をたたえたいならありのままの姿を心にとどめよう。
『父親たちの星条旗』は↓こんな作品や世界観が好きなあなたにおすすめ。この映画を観ている時にパッと思い浮かんだ映画・小説・漫画・アニメ・テレビドラマ、または音楽など
公開日:1998年07月24日
ジャンル:ヒューマンドラマ映画, 戦争映画
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:トム・ハンクス, マット・デイモン, トム・サイズモア
映画『父親たちの星条旗』 – まとめ
戦争映画は観ていて辛い…。そして今回は戦争をわかったつもりでいた自分が辛い。
戦争を体験していなく、生まれた時から平和だった僕も、この平和は当たり前のものだと思ってはいけないとマジマジと感じました。
ただ、戦争は善と悪の戦いではないと言っていたけれど、戦争は悪だ‥と思いたい。
もちろん政府は国を考え、国が豊かになる道を進もうと戦争という手段を選んだのかもしれないけど、戦争で勝っても負けても誰もが全て幸せになれない。
じゃあ戦争をしなかったら全員が幸せになれるのかというとそうじゃないのはわかっているんですが、なんとか武力で訴えず、口論もせず、お互いがお互いの存在を認め尊重し合える世界はないんでしょうか…。
本当に生きているだけで幸せだと思える今の僕は、恵まれているんだなぁ…。
自分って薄っぺらい。
『父親たちの星条旗』でした。
…あ。どうでもいいことですが、最近見たアンタッチャブルという映画の乳母車の名シーンで使われていた階段が『父親たちの星条旗』でも使われていました。
多分、一緒の場所のハズ。CANAL STREETって書いてあった所。ユニオンステーションって場所らしいんですが。
父親たちの星条旗 - 感想・評価
公開日:2006年10月21日
ジャンル:アクション映画, 冒険映画, ヒューマンドラマ映画, 歴史映画, 戦争映画
監督:クリント・イーストウッド
出演:ライアン・フィリップ, バリー・ペッパー, ジョセフ・クロス
父親たちの星条旗
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ストーリー - 80%
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キャラクター - 95%
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演出 - 80%
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映像 - 70%
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音楽 - 75%
80%
映画レビューまとめ
この点数を観て、他の映画と比較してなぜあの映画のストーリーより点数が低いんだとかなぜ演出が低いんだと言われてしまったら、どうしようもないのですがこの映画を観た後に点数を考えるとこんな感じになりました。5点間隔で採点するのやめようかな。ま、辞めても他の作品すべてと比較して点数はつけられないから一緒かもしれない。