灼熱の魂_ドゥニ・ヴィルヌーヴ
灼熱の魂 - 映画情報
  • 公開:2010/09/17
  • 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • 出演者:ルブナ・アザバル, メリッサ・デゾルモー=プーラン, マキシム・ゴーデット
  • 製作国:カナダ
  • 上映時間:2時間11分
MOVIE REVIEWS

灼熱の魂という映画をご存じでしょうか。2010年のカナダの映画です。

監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。下唇がずるむけそうな名前ですが、SF映画『メッセージ』で有名な監督です。

『灼熱の魂』は前回観た『未来を生きる君たちへ』とアカデミー賞外国語映画部門を争った映画で、様々な映画サイトでも非常に高評価の映画でした。

僕はこの映画を『未来を生きる君たちへ』のレビューの中で発見し、ちょうど無料で観る事が出来たので、続けて観てみることにしたのですが、個人的には『灼熱の魂』の方が好みでした。

観終わった瞬間、すげーストーリーだな!とひとつ声を上げた後に放心してしまったほどです。

原題は『Incendies』で「火事」という意味。

1975年~1990年に起こったレバノン内戦を取り扱った非常に重苦しい内容でしたが、子供の頃にニュースで流れてたぐらいの知識しかない僕でも惹き込まれるストーリー展開でした。

これは俗に言う戦争映画ではなく、戦争を背景に展開していくミステリー映画なのです。

それでいて、戦争の悲惨さと恐怖をマジマジと感じ取れる不思議な構成。

ということで、映画『灼熱の魂』についてレビューをしていくことにしましょう。

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映画『灼熱の魂』 – あらすじ

灼熱の魂
4.1

公開日:2010年9月17日
ジャンル:ヒューマンドラマ映画, ミステリー映画, 戦争映画
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演:ルブナ・アザバル, メリッサ・デゾルモー=プーラン, マキシム・ゴーデット

亡くなった母の遺言を受け取ったカナダ在住の双子の姉弟、ジャンヌとシモン。彼女らはその中で初めて父親と兄の存在を知る。そして遺言によりジャンヌは父への手紙、シモンは兄への手紙を託され、母親の故郷へ初めて足を踏み入れることになるのだが…。

映画名作レビュー戦記シネマネオン!-灼熱の魂の巻-

映画名作レビュー
前回までのシネマネオンは…

 館見放題
とある映画館でポスター貼りのアルバイトをしていた館見 放題(たちみ ゆきみつ)。「一旦CMでーす」と言いながら映画ランキングと興行収入を参考におすすめポスターを入れ替えていたが、その作業中、謎の組織ノーモアーズに襲われ記憶と顔を盗まれてしまう。何も思い出せない館見。彼は自分を取り戻すため、引き込まれるように映画館に入り『灼熱の魂』を観ようとしたのだが…

映画『灼熱の魂』 -内容紹介-

館見 放題
ち、畜生!なんだったんだ。あの赤い顔の男は…。何かを思い出せそうだったのに、映画館から追い出されてしまった。『灼熱の魂』とは一体どんな映画なんだ…。
シネマネオン
一言で言えば、“母親の悲劇”だな。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の9番目の作品さ。
館見 放題
だ、誰だ!?
シネマネオン
呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン。レビューロボ、シネマネオンだ!
館見 放題
だから誰やねん!誰もオマエの事なんて呼んでないぞ!
シネマネオン
まぁまぁ、落ち着きなさい。今の君の体ではきっと映画館から追い出されてしまうだろう。アレに非常に似てるからね。アレに。
館見 放題
アレとはなんだ!僕は自分が誰だか思い出せないんだ。
シネマネオン
君は『灼熱の魂』を観たかったんだろう?
館見 放題
そうだった。『灼熱の魂』を観れば何かを思い出せそうなんだ。
シネマネオン
では、私と合体しなさい。期間限定レンタルロボ貸出中、今だけ非常にお得だよ。
館見 放題
怪しさ満点じゃないか!合体って何を…
シネマネオン
ええい。やってみればわかる。君の持っているそのスマホのアプリのボタンを押せ!
館見 放題
いつの間にこんなアプリが!ちくしょー!!こうなりゃヤケだ!ポチッと!
シネマネオン
シネマネオン
アジャラカモクレン、灼熱の魂、テケレッツのパー
館見 放題
館見 放題
うわああーー!『灼熱の魂』の映像が頭のなかに広がっていくぅぅぅぅうう!!
レビュー評価

映画『灼熱の魂』 -解説-

シネマネオン
たとえばもし遺書に、棺には入れず、裸で埋葬して欲しいって書いてあったらどうする?
館見
え?裸で?しかも棺桶には入れないの?うーん、そうだな。でもそれが本人の希望であれば、それを叶えてあげるんじゃないかな。
シネマネオン
それじゃあ、世の中に背を向け、うつ伏せ状態で墓石には私の名前を刻まないでと書いてあったら?
館見
…うーむ。それでもやっぱりその希望は叶えると思うけども。
シネマネオン
それじゃあ、まだあったこともない父親と、存在すら知らない兄へ手紙を渡してくれって書いてあったら?
館見
え!?存在すら知らない兄?父にもあったことないの?…うーむ。出来る限り叶えてあげたいとは思うけど、とりあえず混乱すると思う。
シネマネオン
それが今回の『灼熱の魂』という映画の導入だ。
館見
ほほう。
シネマネオン
カナダに住むジャンヌとシモンという双子の姉弟は母親の死後、母が秘書を務めていた公証人の元に呼び出される。そして母親の遺言を読み上げられ、初めて父親と兄の存在を知る
館見
双子の姉弟が主人公なのか。
シネマネオン
いや、主人公はどっちかっていうと母親になるのかな。母親がなぜそんな手紙を二人に託したのかっていうのが回想シーンで展開されるとともに、双子が手紙を渡すまでを並行して進んでいく感じだからね。
館見
へー。
シネマネオン
ちなみに君は「出来る限り叶えてあげたいと思うけど、混乱する」って言ったけど、まさに双子の姉は叶えてあげようと行動に出て、弟は混乱して何もしなかった。なので最初の方は母と姉が交互に主人公って感じ。
館見
なるほど。
シネマネオン
そもそも最初の回想は母親と姉が一緒にプールに遊びに行っているところから始まってね、母が突然絶望にひしがれたように動かなくなってしまったんだ。一体プールで何があったのか。それが大きな謎として展開していくミステリーなんだよね。
館見
今回はミステリー映画なのか。あれ?でもレバノン内戦に関する映画なんじゃなかったっけ?
シネマネオン
うん。そうだよ。前回の『未来を生きる君たちへ』も不条理な暴力に関する映画だったけれど、今回も世界に満ちる暴力と報復に関する映画だな。レバノン内戦も報復による戦争みたいな所あるし。
館見
正直な話、子供の頃過ぎてイマイチどういう内戦だったか覚えていないんだけれども。
シネマネオン
レバノンって中東の国の中では珍しくキリスト教徒が多い国なんだよ。キリスト教徒6:イスラム教徒5みたいな比率でね。
館見
ふむ。それが何か問題なの?
シネマネオン
日本じゃあまり宗教って概念が薄いからあれだけど、国の中に2つの宗教が同じだけ力を持っているとバランスを取るために様々な事を考慮しなければならないんだ。
館見
ふーむ。
シネマネオン
たとえばその当時は大統領はマロン派キリスト教徒、首相はスンニー派イスラム教徒、国会議長はシーア派イスラム教徒みたいな感じで政治の世界でも複雑に分断していた。
館見
なるほど。同じ宗教でも派閥が分かれるのか。
シネマネオン
でもやっぱりこの中で大統領が一番力を持っていて、イスラム教徒は不満があった。そして6:5だった比率が難民の流入により段々崩れ始めイスラム教徒が国民の過半数を越えるようになると、その不満が爆発。
館見
うぉぉ…。
シネマネオン
しかしキリスト教徒も負けていられない。難民が入ってくるからイスラム教徒に押されてしまうのだと考えたマロン派キリスト教徒は、難民を運ぶバスを襲撃。やられたイスラム教徒もこの事件の報復に出て内戦に発展する。
館見
あー、なるほど。それがレバノン内戦の始まりなのか…。
シネマネオン
まぁ、そういう背景がある中で、この映画の主人公である母ナワルが若き頃、キリスト教徒にも関わらず難民の人と恋に落ちてしまうんだよね。まだバス襲撃事件の前だけども。二人で駆け落ちしようとしていた所を家族に見つかり、彼氏は射殺されてしまう。
館見
ひえぇ…。
シネマネオン
その時彼の子を身ごもっていたナワルは、出産後その土地を離れなければならなくなった。家族の体裁みたいなのがあるからね。子供は実家が引取り、ナワルは必ず息子を迎えにくると心に決め、都市で大学に通うことになる。
館見
まだそんな年齢だったのか。
シネマネオン
ナワルは大学で新聞を使って平和運動を行っていた。しかし、その思い虚しく大学は閉鎖され国全体が不安定な状況に入る。そして自分の村がイスラム教徒に襲撃された事を話で聞いたナワルは子供を迎えに行こうと実家に戻る。
館見
ペンは剣よりも強しって言うけど、ペンは銃には勝てないんだな。
シネマネオン
孤児院を周ったけれど、すでに襲撃され瓦礫となっていた。その襲撃した連中は報復を恐れて場所を移動したという事で、子供も連れて行かれたかもとイスラム教徒のフリをしてバスに乗る。そのバスがレバノン内戦の引き金となったバス襲撃事件のバスなんだ。
館見
な、なんという偶然。
シネマネオン
バスが銃弾で蜂の巣にされ、ガソリンをかけられ今にも火を放たれようとする時、ナワルは自分がキリスト教徒だと叫び、十字架をかかげて間一髪助けてもらう。その時に一緒に車に乗っていたイスラム教徒の子供も一緒に連れて出るんだけど、嘘がバレて目の前で子供が銃殺されちゃうんだ。
館見
…ひえぇ。宗教ってなんなの。
シネマネオン
目の前の惨劇に幻滅したナワル。息子がいるかもしれなかったキャンプは焼け野原になっており、息子を見つけることは出来ませんでした。残ったのはこんな惨状を引き起こしたキリスト教強行派への怒り
館見
なんと…。報復に出るのか!?
シネマネオン
イスラム教徒の方へ寝返り、キリスト教徒の指導者的存在だった男の子供の家庭教師として近づく。そして指導者を暗殺。彼女はその場で捉えられ、15年の禁固刑をくらう。その監獄で彼女は想像も絶するような拷問にあうのだけれど、この拷問がこの物語のキーになっているのだな。
館見
ほほう。
シネマネオン
と、まぁ、ここまでであらすじの紹介はおしまい。ここから先はネタバレをしてしまうので、知らずに見たほうがミステリーとして楽しめると思うし。
館見
えー!気になるじゃないか!
シネマネオン
ただこの映画に関してはすべてを知った上で語りたい感想があるから、とりあえずネタバレの所でもう少し続きを語ろうかね。灼熱の魂はとにかくストーリーが良いんだ。残虐で誰にでもおすすめ出来るタイプの映画ではないけれども。
館見
残虐…。

それは混沌としており、過剰に長く、メロドラマ風だが、それらの欠点は『灼熱の魂』の印象強い演技と破壊的でエモーショナルな衝撃の前には色褪せてしまう

シネマネオン
こんなふうにロッテン・トマトというアメリカの映画評価サイトでは灼熱の魂を評しているね。
館見
混沌で過剰に長いってなかなかの欠点だと思うけども。
シネマネオン
個人的には過剰に長いというより、抜け落ちている部分が多くて、想像で補わなければならない部分が多い気はしたね。
館見
想像で補うとは?
シネマネオン
あまりにも内容が濃いせいで、観ている人が前知識として持っていないといけないものも多く、最初に観ただけでは意味がわからない部分があるかもしれない。レバノン内戦のこととかね。
館見
あー、なるほどね。
シネマネオン
しかし、それらを知っていなくても、惹きつけられる何かがあるし、訴えかけてくる何かがある。観終わった後に面白かったなー、といろいろと調べてみて更に面白さが倍増してくる系の映画だな。
館見
意味がわからずとも面白くて、意味がわかると更に面白いってすごいことだな。
シネマネオン
やっぱりミステリー要素が大きいんだろうね。それに戦争の悲惨さをスパイスした感じだから、まぁ、人によっちゃあ受け付けない人もいるだろうけど、とにかく個人的にはすごいストーリーだと思いましたよ。うん。
館見
戦争映画は受け取り方が難しいよな。映画を楽しんでいいのか、楽しんでいる自分は不謹慎なのかどっちかわからなくなるからな。
シネマネオン
とりあえずこの映画のメッセージに関することはネタバレのコーナーで語ります。
館見
よっしゃ。じゃあ一旦CMでーす。
シネマネオン
シネマネオン
アジャラカモクレン、レビューラビュー、テケレッツのパー
館見 放題
館見 放題
アァ、消える……

映画『灼熱の魂』の批評を終えて

灼熱の魂-レビューラスト
館見 放題
館見 放題
一旦CMでーす!!…ん?あれ?ここは?あ、ポスターの前か。
館見 放題
館見 放題
あー、今回は『灼熱の魂』推しなんだな。このポスター貼って、次の試写会の会場に行く前に、ささっと限定20杯の燻製ラーメン食べに行かなくちゃ!あー。腹が減ってきたなぁ。急がなくっちゃ!!
館見 放題
館見 放題
それにしても、この「映画名作レビュー戦記シネマネオン!」とかいう知らない映画の前売り券を支配人にもらったけど、どうしよう…。一緒に見に行ってくれる人なんていないしなぁ〜。
灼熱の魂評価お終い

映画『灼熱の魂』の名言・心をざわつかせた言葉

遺言で作り話をする人はいない。

避けられぬものに抵抗してはいけない。

守るものがいないと思想は絶える。

我々の敵を憎むからって、お前が我々の味方とは限らない

叔父は言葉と書物が平和を築くと信じてた。私もそうだった。でも現実を思い知った。

時として知らないほうがいいこともある。

“死”で物語は終わらない。常に痕跡を残す。

約束する。公証人にとって約束は神聖なものだ。

長い年月の間、各派の無情な論理によって報復の連鎖がふくらみ続けたのだ。足し算のように。戦闘を指揮する男は記憶力が抜群だ。必ず覚えているとも。

人は真実を前に沈黙する

動画視聴で『灼熱の魂』を実況・解説!

シネマネオン
今回の動画実況はAmazonビデオ版を観て行っています。
  • 0:03:10頃
    な、なんだこの始まりは!?丸坊主にされている少年がずっとこっち見てくる!
  • 0:08:10頃
    誰もがうなずいたと思う。そのとおり。変わった遺言ですね!
  • 0:18:05頃
    …怖っ。ママの目が死んでいる。ここから回想に入るのか。
  • 0:19:40頃
    あれ!?さっきの双子って映画のタイトルが出てきたのだと思ったら違うのか。章題みたいなもんか。今度はナワルだ。
  • 0:22:10頃
    深刻なシーンなはずなのに、おばあちゃんがあまりにキーキー喋るせいでわらってしまう。窓閉めたはずなのに、開いてるし。
  • 0:28:30頃
    今度はダレシュだ。これなんなんだろう。
  • 0:45:55頃
    なんか段々、このお母さんが高嶋ちさ子に見えてきた。
  • 0:48:45頃
    えー!!突然撃ってきた!
  • 0:51:45頃
    宗教とは一体何なのか…。
  • 0:52:05頃
    うぉ…。このシーンは凄惨過ぎる。
  • 0:53:15頃
    久しぶりにBGMかかったな。
  • 0:57:45頃
    言葉がわからない環境にいる時、ほんとこういう感じ。とりあえず笑っとけってなる。そんな時に言葉がわかる人が現れたら、そりゃー安心した顔になるよね。
  • 0:58:40頃
    あれ?ワハブさんって銃で撃たれて殺されてなかったっけ?
  • 1:00:50頃
    今度はデレッサだ。
  • 1:09:10頃
    壮絶な人生だな…。
  • 1:15:00頃
    なんかちょくちょく言っている事が字幕にならないのは別の言語を挟んでいるのかな?フランス語と別の言葉の響きの違いがわからない…。
  • 1:17:00頃
    考えてみれば、ここまでほぼシモンは登場してこないな。
  • 1:20:00頃
    あ、やっとシモン出てきた。
  • 1:25:00頃
    なんてこった。本当にお腹が大きくなっている。
  • 1:26:40頃
    え…。二人目。
  • 1:33:00頃
    ちょくちょくプールのシーンが出てくるな。
  • 1:40:00頃
    この公証人の人、神聖だ神聖だって言っているけど、弟くんとの約束破ってるじゃないか。
  • 1:41:15頃
    弟くんの今の表情いいな。そして姉のあなたの番よという決め顔がいい!
  • 1:43:15頃
    弟くんがこの映画の中で初めて笑ったな。本当になんてことないシーンで。なんか安心する。
  • 1:55:15頃
    あまりに衝撃過ぎて、今の反応も納得できてしまう。
  • 1:57:45頃
    ママの死んだ目がここにつながってくるのか!理由がわかってスッキリした。

映画『灼熱の魂』 – オチ・エンディング・ラストの感想・考察

ねたばれ

ここから先はネタバレを含む場合がございます。まだこの作品を観ていないあなたはこのままページを閉じるか、覚悟の上でお読みください。

by シネマネオン


ここから

クリックしてネタバレを表示
シネマネオン
この映画、意図したミスリードじゃないとは思うんだけど、よく注意して観ていないと双子目線でストーリーを追ってしまうんだよな。
館見
あ、さっきのあらすじの続き?
シネマネオン
そう。ナワルが拷問されて、レ△プされて監獄で子供を産んだというシーンがあるんだ。
館見
…戦争中だろうが、許される事ではないぞ!それ!
シネマネオン
もうすでに観客は最初の方でナワルが子供を産んだのを知っているはずなのに、双子の目線では、兄が監獄で生まれたって言っているから、あ、そうなのか!って感じになってしまう。これが意図していないミスリード。
館見
ん?あー、双子は母が子供を探していたのとか知らないんだもんね。兄と父を少ない情報から探してるわけだから、子供が産まれたと聞いたら兄の方だと思うのも仕方がない。
シネマネオン
結果的に二人は自分たちの出生の秘密を知るわけだけれど、でもここがこの映画のクライマックスではないのです。
館見
うん。まだ父と兄が出てきていないし。
シネマネオン
実はだね、双子は拷問していた男が自分たちの父親だと知った後、その男がナワルの探していた子供だったと知るのですよ。
館見
え!?今なんて?
シネマネオン
双子の姉は父親への手紙を託されて、弟は兄への手紙を託されていたのだけれど、結局は同じ人に渡す事になるのさ。
館見
そうなると息子に母親はレ△プされた事になるのか。
シネマネオン
そんな話をどこかで聞いた事はないかい?
館見
うーむ。確か昔読んだ小説にそんな感じのやつがあったような気がするんだけど、なんだっけな。
シネマネオン
古代ギリシャ三大悲劇詩人のソポクレスが書いた『オイディプス王』さ。
館見
あ!占い師の言葉によって自分の子供を捨てたら、その子供に復讐されたやつか!
シネマネオン
正しくはこうだ。時の王ライオスはアポロンの神託により、自分がやがて生まれる子供の手にかかって殺される事を告げられる。
館見
太古のギリシャの話なんだよね。
シネマネオン
それを恐れたライオスは妻のイオカステとの間に子供が生まれるとすぐに山の深くで殺してくるように命じる
館見
昔の人は占い師の言うことを真に受け過ぎだよね。
シネマネオン
十数年後、ライオスは再びアポロンの神託を聞くために旅に出たがその道中で殺害されてしまう。しかも王を失った国はさらなる苦悩を強いられる。
館見
たしかあれだよね。スフィンクスが襲いかかってくるんだよね。
シネマネオン
そう。解き難いクイズを出して、答えられない国民から命を奪いさっていくんだ。
館見
昔の世はやっぱり不幸につけこんで行くフシがあるよね。
シネマネオン
そこへ放浪の旅を続けていたオイディプスがやってくる。彼は秀でた知性によりスフィンクスの謎を解き国を救う。そして人々に推されライオスの後をついで国の王になるんだ。
館見
そうだったそうだった。
シネマネオン
そしてライオスの元妻、イオカステはオイディプス王の妻となり、平和で幸福な10数年の歳月の間に4人の子供を生む。しかし国に再び災難がふりかかり、オイディプス王はアポロンに神託を聞く。
館見
この物語で一番悪いやつってアポロンの神託なんじゃないのか?って思う。
シネマネオン
この国にはひとつの汚れが巣くっている。国をゆるがしている嵐の原因は、流された血にあり。血をもって血をつぐなえと。
館見
あー、それでライオス王の殺害犯を探しまわるけど、結局それがオイディプス本人だと知り、母と交わって子を産んでいた事を知ってショックを受けた王は自分の目を潰して王位を退くっていう悲劇だったね。
シネマネオン
そう。この物語はオイディプス王目線で悲劇を取り扱ったけど、いわば母であるイオカステ目線で展開したのが今回の映画『灼熱の魂』ってわけさ。
館見
なるほどなぁ〜。
シネマネオン
この映画のラストの方で、ナワルは怒りの連鎖が断たれたと手紙に書いている。息子への愛によって。息子が生まれた時にどんな事があっても息子を愛し続けると約束した。
館見
うぅぅ…。
シネマネオン
その子供とはレバノン内戦のために離れ離れになってしまったし、レバノン内戦は報復の連鎖の戦争だったけれど、ナワルは子供への愛によって報復する事を辞めた。
館見
すごい話だなぁ。
シネマネオン
回想シーンがプールから始まったって言ったけど、ラストにそのプールで起こった出来事が明かされるわけさ。なぜ母は動かなくなってしまったのかがね。
館見
あ、そう言えばこの映画って原題が『火事』なんでしょ?プールって水だから、そこで報復の連鎖という火事が鎮火されたってメタ表現なのかな。
シネマネオン
もしかしたらそうかもしれないね。この映画は決してハッピーエンドではないけれど、心を幸せに似た何かがずっしりと満たしてくれるラストだったよ。
館見
戦争映画って観終わった後に、悲惨過ぎるがゆえに放心状態になることが良くあるのだけれど、そんな感じだったら観てみようかな。

映画『灼熱の魂』のような映画・似てる作品・おすすめ

オイディプス王
4.4

著者:ソポクレス
翻訳:藤沢令夫
出版:岩波書店
ページ数:160

館見 放題
館見 放題
今回は映画ではないですが、ソポクレスの『オイディプス王』を。古典文学であり、戯曲形式で書かれていますが読みやすくページ数も130ページちょっとと少ないので、興味があれば読んでみて下さいませ。今回の映画の後に観てみると内容もすっと入ってくると思います。

映画レビューまとめ

灼熱の魂まとめ

灼熱の魂のレビューをしていきましたが、今回はネタバレをせずに内容に触れるというのが非常に難しかったです。そのネタバレの中にこそ、この映画の本質が描かれていると思うので。

しかし、この映画はネタバレを読んだりせずに観たほうが絶対に面白い系の映画です。なのでアコーディオン形式にして隠して語りましたが、そこの部分がだいぶ長くなりました。

なんというか、正直な話、僕はほぼなんの前情報もなく観たので、最初はちんぷんかんぷんだったんですよ。演出があまり良くないっていうか、想像力で補って系の映画だったので。

でもそれでもストーリーが秀逸で芯が通っているから意味わからなくても面白かったんですよね。そして観終わった後にもさらに楽しみが待っているっていうね。

調べれば調べるほど、このシーンはこういう意味を現している、このシーンではここがポイントみたいな考察が出来て、深みのある映画です。オイラーの等式(eiπ+1=0)の意味とか。

戦争を扱った映画ではあるので、重苦しいとは思いますが、時間がある時にぜひ繰り返し観てみて下さいませ。もしかしたら人生の中で好きな映画の一本になるかもしれません。

ではでは映画『灼熱の魂』のレビューでした。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

野口明人

あ、最後に『灼熱の魂』のレビュー点数です↓

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灼熱の魂 - 感想・評価

灼熱の魂
4.1

公開日:2010年9月17日
ジャンル:ヒューマンドラマ映画, ミステリー映画, 戦争映画
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
主演:ルブナ・アザバル, メリッサ・デゾルモー=プーラン, マキシム・ゴーデット

灼熱の魂
  • ストーリー - 96%
    96%
  • キャラクター - 91%
    91%
  • 演出 - 79%
    79%
  • 映像 - 83%
    83%
  • 音楽 - 80%
    80%
86%

映画レビューまとめ

全体の数字だけみると『未来を生きる君たちへ』の方が高くついていますが、この映画はとにかくストーリーとキャラクターが素晴らしいです。共にアカデミー賞外国語映画部門を争った映画。どちらが好みか観てみると面白いですよ。個人的には『灼熱の魂』の方が好きですが、受賞するのは『未来を生きる君たちへ』で納得って感じでした。あなたはどちらを選ぶでしょうか?

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灼熱の魂_ドゥニ・ヴィルヌーヴ
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