『モーターサイクル・ダイアリーズ』チェ・ゲバラの魅力が…

モーターサイクル・ダイアリーズという映画をご存じでしょうか?2004年公開の洋画なのですが、監督はブラジルのウォルター・サレス。

このウォルター・サレス監督のテーマは「亡命者とアイデンティティの追究」なのだそうで、この映画のタイトルからもわかるようにバイク旅行記です。

しかし、ただのバイク旅行記ではありません。主人公がすごい人なのです。

あなたも、もしかしたら歴史の教科書、はたまたTシャツのデザインか何かで見たことがあるかもしれませんが、アルゼンチン生まれの革命家のチェ・ゲバラがその主人公。

彼の若かりし日の『チェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記』をもとに映画化したこの映画は、カンヌ国際映画祭パルムドールにノミネートされました。

ちなみに、大学生の時にこの映画が面白いと聞きレンタルはしたけれど、忙しくて観ずに返してしまった事がありまして。

この度、Amazonプライムビデオで発見して「そーいえば僕もあれから自転車の旅に出たんだよな」と懐かしくなり特に調べることなく観てみる事にしたのです。

まさかチェ・ゲバラの話だったとは、この映画を観終えるまで知りませんでした。そして、この主人公の魅力が異常過ぎてしびれました。

ということで、映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』のレビューをしていくことにしましょう。

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映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』 – ストーリー

モーターサイクル・ダイアリーズ
4.2

公開日:2004年05月07日
ジャンル:冒険映画, 伝記映画, ヒューマンドラマ映画
監督:ウォルター・サレス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル, ロドリゴ・デ・ラ・セルナ, ミア・マエストロ

チェ・ゲバラの若かりし頃の旅の記録。医大生エルネストとその先輩、科学者のアルベルトは1台のバイクにまたがり、南米大陸縦断旅行に出かける。特に決まった目的もなく旅をしたいから旅に出た二人だったが、途中恋人に出会ったり、事故にあったり、旅先の人に助けられたり、遺跡を巡ったりしながらも、徐々に南米社会の厳しい現実を目の当たりにしていく。ひとりの医大生でしかなかったエルネストがなぜチェ・ゲバラと呼ばれる革命家になったのか。その原点とも言えるロード・ムービー…

もし、あなたにパン屋で『モーターサイクル・ダイアリーズ』ってどんな映画?あらすじは?と聞かれたなら…

野口明人
この映画は一言で言えば、“チェ・ゲバラという革命家の原点の旅の映画”なんだ。
野口明人
チェ・ゲバラと言えば、ヴィレッジヴァンガードなどでポスターを見かけたり、Tシャツのデザインになっているなぁぐらいなイメージしかなかったんだけど、まさかこんな感じの人だったとは。
野口明人
…と、言ってもまだまだこの映画の時には普通の若者で、のちにカストロと共にキューバ革命の革命指導者と呼ばれるようになるチェ・ゲバラのような人ではないんだね。
野口明人
チェ・ゲバラの知識は必要なく楽しめる映画。
野口明人
本当に普通の大学生。あ、チェ・ゲバラの「チェ」ってのはあだ名的なもので本名はエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナっていうんだ。
野口明人
「チェ。エルネスト・ゲバラだ」って初対面の人に言うのが口癖だったんだそうだよ。「チェ」はスペイン語で「やぁ」って意味なんだってさ。
野口明人
その普通の大学生(ハンセン病を研究する医大生)、エルネストが、彼の先輩であるアルベルト・グラナードと共に“ポデローサ(怪力号)”と名付けた1つのおんぼろバイクに乗って4ヶ月で8000キロ走るという計画を立てた。
野口明人
目的は“探検”というざっくりしたもの。
野口明人
本でしか見たことない土地に行ってみよう!的な。
野口明人
手段は行き当たりばったり。お金もそれほど持たず、その場その場で誰かから恵んでもらえるだろうっていう考えでスタートする。
野口明人
そもそもエルネストは喘息持ちでありながらラグビーやサッカーなどの激しい運動を好む性格の持ち主。
野口明人
6歳年上の女好きアルベルトが持ってきたその南米大陸縦断の旅にもワクワクして仕方がなかった。
野口明人
親は大学を卒業して医者になって欲しがったが、休学して旅に出る。
野口明人
その後は特にあらすじ的なものはないに等しい。
野口明人
食べ物や宿を恵んでもらうために二人で交渉したり、恋人に会いに行ったり、マチュピチュ遺跡で写真を撮ったり…。
野口明人
普通の大学生の自分探しの旅みたいな感じが続く。
野口明人
ただ、物語の途中で、おんぼろバイクのポデローサは限界を迎えて鉄くずになってしまう。
野口明人
『モーターサイクル・ダイアリーズ』ってタイトルだけどバイクに乗っているのは半分だけっていうね。
野口明人
そこからは歩いてヒッチハイクしたり砂漠をひたすら歩いたりして旅を続ける。
野口明人
実直すぎる正義感の持ち主であるエルネストと事なかれ主義でお調子者なアルベルトは時に喧嘩もした。
野口明人
けれども旅を続ける中で徐々に南米社会の現実を目の当たりにし、個々それぞれが自分に出来る事を発見していく。
野口明人
そしてハンセン病療養所にたどり着いたのち、アルベルトは旅を終え実用的な科学者の道に進み、エルネストはもう少し旅を続けた後、革命的政治活動の道に進むことになる。
野口明人
この映画、大きなストーリー展開がない代わりに様々な印象的な旅のシーンが垣間見える。
野口明人
銅山の最下層の労働者や、権利を奪われた先住民の貧困、基本的な医療さえ受けられない状況。
野口明人
それらがこの旅以前のエルネストを革命家チェ・ゲバラに変えていくきっかけになったんだなぁっていうのが、それらを前にしたエルネスト役のガエル・ガルシア・ベルナルという俳優さんの演技が良くてひしひし伝わってくるね。
野口明人
それとアルベルトも最初はなんかお調子者で女好きのいけ好かない奴なのかなって思ってたんだけど、旅の交渉中にエルネストが正直過ぎて人を傷つけちゃう場面でも必死にクッションになろうとしてたり、エルネストの演説にウルウルきたりしてなんか憎めなかったね。
野口明人
んで、この映画の最後はアルベルト・グラナードご本人登場で遠くを見つめるってシーンで終わるんだけど、すごく良い終わり方だった。
野口明人
おじいちゃんの眼差しが何か訴えてたね。
野口明人
この映画の良さを説明するのが若干難しくてね。
野口明人
ストーリーはバイクに乗っている所まではただの学生さんの青春旅行みたいな所もあるし、大きなストーリー展開があるわけでもないからさ。
野口明人
その場面場面でドキッとさせられたり、にじみ出る何かを感じ取る系の映画でさ、観終わったは確かにある種の爽快感を得るんだけど、一体それはどこから?と具体的に指摘しようとしてもモヤとしちゃう。
野口明人
それでもこの映画を引き締めてくれているのはやっぱり音楽かなぁ。
野口明人
僕はストーリー主義寄りな人間だから、音楽を褒めることは少ないんだけど、この映画は妙にマッチしてた。
野口明人
壮大なオーケストラっていうんじゃなく、しんみり耳に入ってくるアンビエントみたいな。空気感が良くてね。心地いい音楽だね。
野口明人
ちなみにこの映画の主題歌はスペイン語の楽曲として初めてアカデミー歌曲賞を受賞したそうだ。
野口明人
いやー、それにしても思い出すよ。僕もチャリで日本を横断した事があってね、テント積んで野宿しながら。
野口明人
人との関係に疲れてたり、自分って一体なんなんだろうとか考えちゃってたりしてね。自分探しの旅に出たわけだよ。
野口明人
まー、わかった事は旅先に自分は落ちていない。旅に自分を求めても見つからないってことだな。
野口明人
一人になりたいって思ってひたすらチャリこいだけど、旅先どこに行っても話しかけられるし、その都度、相手によって自分を変える。
野口明人
自分っていうのは人がいることで存在するんだな〜って感じた。
野口明人
普段生活して、長いこと同じコミュニティに属していると自分が考えている自分とは違う自分を長く実感しなくちゃいけないわけで葛藤してストレス溜まるけど、そもそも本当の自分なんて自分にだってわからない。
野口明人
これは自分じゃないんだ。自分らしく生きたい!とか自分探ししたくなるけど、探しているのは自分ではなく居場所なんだろうな。
野口明人
自分が必要な場所。自分にしか出来ない何かがある場所。
野口明人
それをこのチェ・ゲバラやアルベルト・グラナードは旅を通じて見つけたんだろうと感じた。
野口明人
旅は良いよ。嫌だと思っている事が嫌じゃなくなる。
野口明人
虫が大嫌いだったけど、今まで見たこともない虫とテントで一緒に眠れるようになる。
野口明人
人が嫌だと思ってたけど、不思議と優しさばかりに目がいくようになる。
野口明人
もう二度と会わない人ばかりなんだと割り切るから人見知りも治る。
野口明人
一期一会ってすごい。一瞬を大切にするようになる。
野口明人
ま、あれだね。映画の話に戻るけど旅つながりで『イントゥ・ザ・ワイルド』みたいな映画が好きなら、この映画が好きかもしれないね。
野口明人
あっちは一人で旅するだけど。ラストもちょっと悲惨だから全く似てないっちゃ似てないんだけど、旅に出たくなったり風景の綺麗さ、旅から感じるなにかが映像を通してひしひし伝わってくるからなー。
野口明人
興味が湧いたら調べたりしてみてよ。数珠つなぎでチェ・ゲバラやアルベルト・グラナード、キューバ革命なんかを調べてみても面白いと思う。

…そんな事を『モーターサイクル・ダイアリーズ』についてウグイスパンを取りながらで話すと思います。

『モーターサイクル・ダイアリーズ』の名言・心をざわつかせた言葉

お母さん、ブエノスアイレスを出て、惨めな生活とも退屈な講義ともお別れです。

美しいダイヤは、隠せば隠すほど、ますます奪いたくなる。

あなたを待ってる。でも永遠はイヤ。

お母さん、国境を越える時、胸によぎるのはいつも2つの思いです。背にする国への郷愁と新たな国へ入る興奮です。

お母さん、僕は無力でした。この老女はつい先月までぜん息と闘いながら厳然と生きようとしていたのです。瀕死の彼女の目は許しと慰めを求めていましたが今は虚しく消えました。僕らを取り囲む偉大なる神秘に肉体が失われていくように。

「なぜ旅を?」「旅をするためです」

この遺跡を築き上げた文明が、なぜこの文明に滅ぼされたのか…

「人生は苦痛よ」「そう。つらいよ。生きるために闘い続けなきゃならないからね」

無意味な国籍により国が分かれていますが、南米大陸は1つの混血民族で形成されているのです。ゆえに偏狭な地方主義を捨てて、ペルーと統一された南米大陸に乾杯しましょう。

これは偉業の物語ではない。同じ大志と夢を持った2つの人生が、しばし併走した物語である。僕らの視野は狭く偏りすぎていただろうか。僕らの結論は頑なすぎたのか。かもしれない。南米放浪の旅は想像以上に僕を変えた。少なくとも、もう昔の僕ではなくなっていた。

『モーターサイクル・ダイアリーズ』のおすすめポイント

・青春が終わる瞬間を映像の中で観ることが出来る。

・本でしか見たことがない場所に行くというざっくりした目的だったが、本で知るのと目で見る事の違いがここまで違うものかという事実を叩きつけてくる映画。

・何にも動じずに自分を貫き通すエルネストのかっこよさが光る。

映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』 – まとめ

大学生の時にこの映画を観ていたら自分の人生、何か変わっていただろうかと考えずにはいられません。

自分が正しいと思ってきたものだけを信じて歩いてきたつもりだけど、その自分の正しいものは時間が過ぎる度に変化してった。

チェ・ゲバラがなぜ若者のヒーローなのか、この映画を観て、その後チェ・ゲバラについて調べていくうちにちょっとだけわかった気がします。

そりゃーポスターにもなるし、Tシャツのデザインにもなりますな。

革命というのが正しい正しくないは別として、正義か悪かは別として、人の生き方として、自分の信じるものをひたすら真っすぐに生きていける強さはとにかく魅力的で、僕はこの映画の中の小説の感想を言うシーンを観て、なんてこの人は素直で、かっこいいんだと思ってしまいました。

あのシーン、悲惨な現実がつらつら重ねている場面に突然入ってきた感じで、流れをぶった切っている気はしましたが、それが余計にエルネストとアルベルトの対応の仕方をくっきりとさせて、チェ・ゲバラとはどういう人だったのかを伝えて来ているのだと思います。

何より素晴らしいと思うのは、チェの正直さだ—それに、否定的なものを肯定的なものに変えてしまう能力もすばらしかった。…彼は妥協しなかった。彼に見えていたものを共有し、それを信じなければ、容易なことではなかった。

彼は、自分が公正と考えたもののために闘い、死んだので、若い人々にとって、彼は見習うべき存在になっている。そして、時が流れ、世界の国々がますます腐敗した連中に支配されるようになっているとき…チェの人格は、いよいよ大きく、偉大になってきていて、真似されるべき人物になっている。彼は崇められたりするような神ではなく、私たちが見習うことができる、常に最善を尽くした模範的な人間なのだ。

アルベルト・グラナードがのちにチェ・ゲバラについて語った言葉がWikipediaに載ってました。

この言葉を体現している映画『モーターサイクル・ダイアリーズ』は非常によく出来た映画だと思います。

これなら多少美化されていたとしても構わない。


モーターサイクル・ダイアリーズ - 感想・評価

モーターサイクル・ダイアリーズ
4.2

公開日:2004年05月07日
ジャンル:冒険映画, 伝記映画, ヒューマンドラマ映画
監督:ウォルター・サレス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル, ロドリゴ・デ・ラ・セルナ, ミア・マエストロ

モーターサイクル・ダイアリーズ
  • ストーリー - 65%
    65%
  • キャラクター - 95%
    95%
  • 演出 - 90%
    90%
  • 映像 - 75%
    75%
  • 音楽 - 95%
    95%
84%

映画レビューまとめ

2時間程の映画で、前半は青春、後半は現実との対面、青春の終わりを感じさせますが、もしかしてバイクを捨てるというのが青春の終わりのメタファーだったのでは?と思いました。そう考えると素晴らしい演出。そして不安定で静かな音楽もこの映画の雰囲気をグッと引き立てています。

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