ミストという映画をご存じでしょうか。2007年に公開されたホラー映画なのですが、なんと監督はフランク・ダラボンです。
『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』の監督として知られていますが、まさかのホラー映画…。
しかもこの映画の原作はスティーヴン・キング。
お気付きの方もいるかもしれませんが『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』も原作はスティーヴン・キングなのです。
なのでこの二人のコンビは僕の中で爽快な映画を作ってくれるイメージが出来上がっていましたが、今回の映画はその想像をあっさり裏切ってくれました。
そうでした。
スティーヴン・キングはホラーの帝王と呼ばれている作家なのでした。
本来はこういう雰囲気のほうがスティーヴン・キングは本領を発揮するのです。
しかし、実はこの映画『ミスト』の中でフランク・ダラボン監督がスティーヴン・キングを唸らせた演出があります。
それは…。
ということで、映画『ミスト』のレビューをしていくことにしましょう。
スポンサードリンク
映画『ミスト』 – ストーリー
公開日:2007年11月21日
ジャンル:ホラー映画, SF映画, スリラー映画
監督:フランク・ダラボン
主演:トーマス・ジェーン, マーシャ・ゲイ・ハーデン, ローリー・ホールデン
嵐が過ぎ去った次の日、デヴィットは買い出しのため子供を連れてスーパーに出かける。嵐の影響で停電している店には客がごった返していたが、やがて店の外でサイレンが鳴り始める。血を流した男性が店に駆け込み「霧の中に何かがいる!」と叫び出す。戸惑う中あっという間に街中が霧に包まれ、不安に駆られた客は店内に閉じこもるが、徐々に精神を蝕まれていき…
もし、あなたに和食屋で『ミスト』ってどんな映画?あらすじは?と聞かれたなら…
この映画は一言で言えば、絶望的過ぎるラストの映画なんだ。
映画界のミスチル的なAmazonでも700件以上のレビューが付いていながら評価4.5以上の化物級の素晴らしい映画。
あれの監督がフランク・ダラボンって言う人で、原作がスティーブン・キングなのね。
この『ミスト』もね、監督フランク・ダラボンで原作スティーブン・キングなんだよ。
だからさ、ショーシャンク的な爽やかなラストを想像してたのね。
ショーシャンクってもちろん残酷なシーンもあるけど、ラストが爽快で後味がいいと思うんだよね。
でも、この映画は違う。マジで同じ人なの!?って叫びたくなるぐらい、ラストがもう、うわぁぁぁぁぁ…だった。
もうね、ラストが、うわぁぁぁぁぁ…なの。
とりあえず、軽くあらすじを紹介していこう。
主人公デヴィットは、家の木が折れて窓が割れたり、ボート小屋が壊れてたりで、必要な物をスーパーに買い出しに行くことになった。
まぁ、なんで不仲なのとか、ここん所はそれほど重要じゃないから詳しく話さない。
同じように嵐の影響を受けた人たちが買い出しに来ているんだろうね。
でも、スーパーも嵐によって停電になってて、レジは動かないし、てんやわんや。
唯一、冷蔵庫だけは自家発電によってなんとかっていう状況。
デヴィットは子供と一緒に必要な物をかごに入れたりしてね、子供にとっちゃ嵐も楽しい出来事みたいな感じでワイワイやってるわけ。
でも、そんな温かい空気がサイレンによってぶっ壊される。
外を見るとなにやらパトカーとか救急車とか軍人がざわついている。
そして血を流したおっちゃんが走って店内に入って来ると…
なんの事かわからないうちに街中が霧に包まれちゃってさ、店の中から外を眺めても、真っ白で何も見えないの。
どういう事だよとそのおっちゃんの説明を聞いたものの、イマイチよく把握できない。
「とりあえず店の外には出ない方がいい!」って言うの。
状況に怯えた客達はとりあえず店にこもるんだけど「家に子供を残して来ているんです!」っていう女性がいた。
「誰か一緒に帰ってくれませんか?」って叫ぶけど、主人公を含め、店から出たくない一同はその女性を冷たい目で見るしかなかった。
誰からも見放された女性は一人で店を出て霧の中に消えちゃう。
残された客達はやる事もないからお店の中で時間を過ごすんだけど、デヴィットは子供のために毛布か何かを持ってきてあげようと店の倉庫に行く。
そこにはさ、冷蔵庫のための自家発電機があるんだけど、なんか煙出てるんだよね。
焦って電源を落としたのも束の間、シャッターがドーン!ドーンって外から殴られているのを目にする。
や、やばい!って店内に戻り、店員とそこらへんにいた客に話をしたんだけど、デヴィットの話を信じない人ばっかで「ビビってんじゃねーよ」と笑われながら一緒に倉庫に行くの。
「あれ?自家発電機の電源切れてるじゃん」ってみんなが言ってさ、「そんな事しちゃダメだよ」と再度電源を入れる。
するとまたもや煙が出て「あー、これは外のパイプになんか詰まっているんだな、シャッター開けてパイプの詰まりを取り除かなきゃ」ってなるんだけど、デヴィットは必死で反対する。
さっきのドーン!ってのを見ているからね。
でも他の客は「うるせえよ、俺はお前みたいにビビりじゃないんだ、口出しすんな」って聞かなくてさ。シャッター開けちゃうの。
その瞬間、巨大なタコの触手みたいなのが、人間一人をかっさらう。
え?え?え?ってなった客はさ、ビビって動けなくなっちゃって、デヴィットはなんとかシャッターを閉める。
「お前があいつを殺したんだぞ!!」なんて、さっきバカにしてきたヤツを罵倒するデヴィット。
絶対に外に出てはいけない。それを店中の客に伝えないといけないわけだね。
でもやっぱり実際にさっきの状況を見てない人達は信じないからさ、外に出て助けを呼んだ方がイイ派と店にこもった方がイイ派に分かれちゃうのね。
んで、最初に出てきた不仲な隣人は外に出る派。
この隣人は弁護士でさ、頭が良くて弁が立つの。だから人々に演説して、外に出る派を募っていく。
まあ、最後までこの隣人はデヴィットの意見を聞かなくて、外に出て行っちゃうんだけど、その時に一つだけデヴィットはお願いをした。
体にロープをつけて外に出てくれ。そしてそれをこっちで引張りながらいれば、何m までなら安心だとかわかるってね。
そして外に出る派の一人の腰にロープをまいて外に出たんだけど、霧の中に入って間もなく恐ろしい力でロープが引っ張られてね。
店内に残ったみんなは焦ってロープを手繰り寄せる。
窓の付近にバリケード作ったりして完全防備…のつもり。そして夜になる。
店内の光に呼び寄せられた巨大な虫や、恐竜みたいな生物が窓を割って店の中に入ってきて、大惨事。
とりあえず火とか銃を使ってなんとか巨大な生物をやっつけるんだけど、問題は巨大な生物だけじゃなくてさ。
店内に一人お客さんでちょっと頭がおかしいとされてた女性がいたのね。神がなんだのブツブツ狂信的な発言をする人が。
最初のうちはみんなその女性の声に耳なんて傾けなかったんだけど、大惨事が起こり始めた時ぐらいから、信者が出てきてね。
これは神の裁きなのだとか、なんだの言い始めて、生贄を差し出せとか言い出す始末。
最初は少なかった信者も、恐怖にかられてどんどん増えていってしまう。
最終的にはデヴィットのような信者じゃない方の人の方が少なくなっちゃってさ。生贄を差し出す事を実行し始めるんだよね。
何やらこの状況を生み出した原因が軍の「アローヘッド計画」っていうのらしくてね。
異次元がどうのとかなんとかで、それが教祖さまの耳に入ってしまった。
「お前のせいだ!あいつを生贄として差し出すのだ!」
その声を聞いた信者達は軍人をナイフで刺し、店の外に出しちゃう。
そんな状況を見たデヴィットは次は自分の子供かもしれない、自分の知人かもしれないとか考えて、これは店を出なきゃってなるの。
ロープを繋いだ時にある程度は進めたからさ、それよりも手前にある車に乗れば大丈夫だって感じで準備をして、外に出る計画を立てるわけ。
んで、教祖が次は息子が生贄だ!ってなって。
まぁ、そこらで一悶着あってね、なんとか車に乗って脱出する。
車に乗れたのは5人。デヴィット、息子、女性、おっちゃん、ばっちゃ。
デヴィットはひとまず自分の家に車を走らせるけど、そこには妻の死体があってね。
デヴィットは哀しみをこらえ、車を走らせる。
窓の外は巨大な怪物や虫、恐竜達がうようよ。
よくやったよな。出来る限りの努力はした。誰も自分達を責める事は出来ない。
…と、まあざっくり言うとこんな感じの映画なの。
ネタバレしないようにところどころ端折ったけど、ラストがね…。
ただ他のSFホラーに比べて、エイリアン的なグロテスクな生物が出て来る場面は非常に少ない。
そうだな。前にも話した『
キューブ』のように、
窮地に立たされた人間の精神の怖さを主軸にしたホラーなんだな。
怖いなんてもんじゃない。エイリアン的なスプラッタ的なそういう怖さもある事ながら、人間という集団の壊れていく様、その流れがね、本当に怖い。
でもね、それで終わってたら、まぁたまに見かけるよなこういうのって映画で終わっていると思う。
本当に怖いのはラストを観ないとわからない。
スーパーマーケットということで食料などは確保できていたのは幸いだったが、しょせんスーパーマーケットは防御壁ではなく、何かが襲撃してくると、ガラスは割られ、簡単に侵入を許してしまう。
精神的に追い詰められた人々は理解不能な状況を神の怒りだと宗教じみたことまで信じるようになってくる。
スーパーマーケットの外は何かわからないものが襲ってくる。
スーパーマーケットの中は何かわかっているが恐ろしいものが襲ってくる。
決心を固めた主人公を含めた数人は、近くにあった車に飛び乗り、残った力をすべて使って逃げる。
映画予告であったように、この映画の見所はラストの15分。
これほど後味の悪い映画は観たことがない。ちくしょー。なんなんだよ…。と、絶望に打ちひしがれてしまったよ。
本当にネタバレがあれで詳しく言えないんだけど、この映画の最大の怖さはあれなんだよ。
主人公目線で描かれているにも関わらず、主人公の行動が正しくないって所なの。
映画を観ている時はさ、主人公がとった行動は正しいように思える。
窮地に立たされて、宗教信じて、生贄がなんだって言ってたら頭おかしいなこいつら、危ないのはこいつらなんだなってなるじゃん?
本当に怖いのはエイリアンじゃなくて人間だって思うじゃん?
それから逃れる為に店を出る主人公は正しいって思うじゃん?
でも、実はこの行動ですら、窮地に立たされてとった行動なわけ。正しい判断が出来てないわけ。
んで、ラストはそれを思い知らされるものが待ってるわけ。
調べてみるとスティーヴン・キングの原作「
霧」とは違うみたいで、
映画独自のラストのよう。
『霧』は短編集に入っている作品なんだけど、その出来のよさにスティーヴン・キングは「執筆中に思いついていたら絶対にこのようにしたのに…」と言っているぐらいのラスト。
Amazonのレビューでも、小説より映画の方がいいって書いている人もいる。
『霧』のラストはネタバレ的に言っちゃうけど、ガソリンが尽きた後に、ガソリンスタンド見つけて、ガソリンを入れて再び目的もなく南に走り続けるって感じで終わっているのね。
これならさ、助かるかどうかわからないけど、あのスーパーマーケットにいたら人間に殺されていたかもしれないって事で主人公の行動は正しい感じになるじゃん。
でもフランク・ダラボンが考えたラストになる事で、恐怖の矛先が主人公の行動に向くんだよ。正しい事はなんだかわからないってね。
もう、もう!とにかくこのラストはあれだ。『
ミリオンダラーベイビー』とか、『
セブン』のラストをさらにさらに後味悪くしたようなラスト。
ちくしょー。実際に観てもらわないとこの映画の面白さを伝えきれない…。
怖いのはエイリアンじゃないよ。人間だよ。怖いのは人間じゃないよ。自分だよ。自分も人間だって忘れることだよ。
こんな感じの恐怖の矛先が二転三転していく感じっていうの?それがすげーんだよ。
スティーブン・キングはさ「この結末は衝撃。恐ろしい。だがホラー映画を見に行く人々は必ずしもポリアンナ・エンディングを望んでいるわけではない」って事を言ってるぐらいだ。
ポリアンナ効果っての?ネガティブよりもポジティブが好まれる感じなのはそうなんだけど、ホラーはそれじゃなくてもいいっていうね。
これぞダラボンの言う「とてもダイレクトで、マッスラーな映画を作りたかった」ってやつだよね。
ショーシャンクとミストはジャンルが違う。だから同じ監督、同じ原作者でも、爽やかなラストとそれとは対極にいるラストになるわけだね。
同じタッグだから同じ感じを想像、期待しちゃってたけど、それなら『
グリーンマイル』を観ればいいんだ。
『ミスト』はホラー映画。だから同じ感じにはならないんだよね。本当にすげーよ。こう両極端な映画作れるんだもん。
そうだな。似たような映画は思いつかないけど、さっきあげた『
セブン』とか、『
ダンサー・イン・ザ・ダーク』みたいな映画が好きなら、この映画が好きかもしれない。
ま、興味が湧いたら調べたりしてみてよ。Wikipediaにはネタバレ書いてあるから、観てからの方が絶対いいとは思うけどね。
…そんな事を『ミスト』について芋がらの煮物でもつつきながら和食屋で話すと思います。
『ミスト』の名言
「人間は生まれつき善良だわ。ここは文明社会よ」「都市が機能していればね。でもひとたび闇の中に置かれ恐怖を抱くと人は無法状態になる」
人間は根本的に異常な生き物だよ。部屋に2人以上いれば最後は殺し合うんだ。だから政治と宗教がある。
僕を怪物に殺させないで。
できる限り努力した。誰も否定できない。
『ミスト』のおすすめポイント
・スプラッターホラーがダメな人でもそういう表現が少ない為、比較的観やすい作品。…だからと言っても恐怖は何倍も襲いかかってくるからご注意。
・ラストを観てから色々と調べて欲しい。観た後も楽しめる、あと引く映画だと思う。
映画『ミスト』 – まとめ
ラストがなにかと評価される作品ですが、まさにその通りでした。そして、それを知った後に主人公の行動を振り返ってみると、まじで何が正しいのかわからなくなるよーーーー!!!っていう恐怖ね。
結果論になっちゃうんだけどね。主人公の行動が正しかったか、そうじゃなかったかなんて。それをこう、最後にガツーンと叩きつけられるこの感じね、素晴らしいラストでした。
うん。本当に怖いのは自分も恐怖にかられている事を忘れる事。この映画を観ている人もきっと主人公がとった行動は正しいと思いながら観てしまうはず。
そういう感じで面白い視点を見せてくれる映画でした。こんな映画も観ておいても損はないはず。話題には困らなくなりますので。
時間があれば、ぜひ観てみてくださいませ。
ではでは、今日はこのへんで。『ミスト』でした。
あ、ラストのエンディングロールの時に無音の中にヘリコプターの飛ぶ音などが混じっている感じが主人公の虚しさを表現出来ていて、音響も優れている作品でございます。
ミスト - 感想・評価
公開日:2007年11月21日
ジャンル:ホラー映画, SF映画, スリラー映画
監督:フランク・ダラボン
主演:トーマス・ジェーン, マーシャ・ゲイ・ハーデン, ローリー・ホールデン
ミスト
-
ストーリー - 75%
-
キャラクター - 70%
-
演出 - 95%
-
映像 - 75%
-
音楽 - 90%
81%
映画レビューまとめ
今までのホラーでは体験してこなかった恐怖を感じられる作品。何度か時間を開けて繰り返し観て欲しい。最初に観た時はラストばかりに目が行くけど、ラストを知って観てみると新しい恐怖が生まれると思う。