『トイレのピエタ』信者以外に観て欲しい。杉咲花の存在感が

トイレのピエタという映画をご存じでしょうか?2015年に公開された邦画ですが、RADWIMPSのボーカル野田洋次郎が主演として俳優デビューし、日本アカデミー賞の新人賞を取った作品です。

ちなみに、トイレのピエタというのは1989年に手塚治虫が死ぬ前に書いた最後の作品、最後の文章、日記でして、手塚治虫のファンでもない松永大司監督がインスピレーションを得たとして作ったのがこの映画なんですよね。

タイトルまでそのまま使ってしまって…。

手塚治虫の娘さんの手塚るみ子さんが試写会後に酷評したこととしても有名でして、故人を思うとなんとなく気がひけて観ていいものかと迷っていました。

現に某レビューサイトでは洋次郎信者の高評価と手塚治虫ファンの低評価がバチバチしている作品でして。

それでも2011年ぐらいから応援していた杉咲花が出てるというので、おそるおそる観てみると洋次郎とか手塚治虫とか抜きにして、その存在感は圧巻でした…。

ということで、色々と触れることのある映画『トイレのピエタ』のレビューをしていくことにしましょう。

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映画『トイレのピエタ』 – ストーリー

トイレのピエタ
4.5

公開日:2015年06月06日
ジャンル:ヒューマンドラマ映画
監督:松永大司
出演:野田洋次郎, 杉咲花, リリー・フランキー

才能を持ちながらも絵を描くことを辞めてしまった美大卒の園田宏。突然倒れ、医者から胃がんで余命3ヶ月だと宣告される。現実を受け入れられない彼は、荒れ狂う女子高生、宮田真衣と出会い「今から一緒に死んじゃおうか?」と誘われる。夢を諦めてただやり過ごすだけだった生活に突然忍び寄ってきた死の恐怖。生きる事も死ぬことも選択出来ない彼を救ったのは…

もし、あなたに焼き鳥屋で『トイレのピエタ』ってどんな映画?あらすじは?と聞かれたなら…

野口明人
この映画は一言で言えば、“死と慈悲の映画”なんだ。
野口明人
“ピエタ”ってのがイタリア語で哀れみとか慈悲って意味で、聖母子像のうち、「死んで十字架から降ろされたキリストを抱くマリアの彫刻や絵」の事をピエタって呼ぶんだね。
野口明人
サン・ピエトロ大聖堂にあるミケランジェロのピエタが有名なんだそうだ。
野口明人
手塚治虫は亡くなる約2年前、奥さんとともにイタリアにいってシスティーナ礼拝堂でミケランジェロが寝転びながら描いたという天井画を見た。
野口明人
そしてサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂でミケランジェロが作ったピエタを見た。
野口明人
それが記憶に強く残っていたんだろうね。死ぬ直前に書いた日記の最後のページにこんな事が書いてある。

一九八九年一月一五日

今日はすばらしいアイディアを思いついた!トイレのピエタというのはどうだろう。
癌の宣告を受けた患者が、何一つやれないままに死んで行くのはばかげていると、入院室のトイレに天井画を描き出すのだ。
周辺はびっくりしてカンバスを搬入しようと するのだが、件の男は、どうしても神が自分をあそこに描けという啓示を、 便器の上に使命されたといってきかない。
彼はミケランジェロさながらに寝ころびながらフレスコ画を描き始める。 彼の作業はミケランジェロさながらにすごい迫力を産む。 傑作といえるほどの作品になる。 日本や他国のTVからも取材がくる。
彼はなぜこうまでしてピエタにこだわったのか?これがこの作品のテーマになる。
浄化と昇天。これがこの死にかけた人間の世界への挑戦だったのだ!

引用:「トイレのピエタ」(2017年04月17日(月) 14:30 UTC)
『ウィキペディア日本語版』

野口明人
この手記を見て、監督の松永大司がオリジナルストーリーを書いたのが、今回の映画『トイレのピエタ』。
野口明人
手塚プロダクションはこの手記から「クミとチューリップ」というアニメを制作しているし、全くの別物。
野口明人
しかしタイトルに『トイレのピエタ』を使ってしまったので、どうしても手塚治虫ファンの人は手塚治虫のカラーを想像するし、実際に観てみると想像していたものでは無いものを提示されるので、映画自体の出来不出来ではなく、手塚作品としてどうなのかで判断されてしまう。
野口明人
もし、これがタイトルが別のもので、手塚治虫とは全く無関係のものとして発表されていたならここまで評価が割れなかっただろうけど、逆に観てくれる人も少なかったかもしれない。
野口明人
だから一概に悪いとは言えないんだけど、でもやっぱり手塚治虫の看板を掲げなければもっと評価されていただろうに…と思ってしまうよ。
野口明人
さて、ごたくはこのぐらいにして、あらすじをちょろっと。
野口明人
才能がありながらも夢を諦めた美大卒の園田宏。彼を演じているのがRADWIMPSのボーカルの野田洋次郎。
野口明人
宏はビルの窓拭きをしながら何の目的もない日々を過ごしていた。
野口明人
しかし、胃がんが見つかり医者から余命3ヶ月だと告げられる。現実を受け入れられない宏。
野口明人
病院で偶然居合わせた女子高生、宮田真衣はそんな彼に「今から一緒に死んじゃおうか?」と誘う。
野口明人
宏は真衣をバイクの後ろに乗せ、アクセルをひねり加速するが思い直し真衣を家に返す。
野口明人
不満そうに帰る真衣。宏は倒れてしまい病院に入院する。
野口明人
抗がん剤治療の副作用で吐き気に苦しむ宏は病院を脱走し、元の生活に戻ろうとするが、職場にはすでに新人が雇われ、職場でも副作用による下痢に苦しみ居場所をなくす。
野口明人
再び倒れてしまい病院に戻った宏。
野口明人
同室の横田とは話が合わず、自分に懐いてきた子供の拓人には冷たくしてしまう。横田はリリー・フランキーね。
野口明人
病院の患者はみんな、がん患者にも関わらず明るい。
野口明人
酷く傷つけてしまった拓人さえ、明るく宏に接してくれる。
野口明人
せめてもの償いのために宏は真衣を病院に呼び出し、拓人が好きなヒーローの本を買って来てもらった。
野口明人
そしてヒーローをノートいっぱいに模写して拓人にプレゼントする。
野口明人
それがきっかけに真衣は度々宏に会いに来る。
野口明人
破天荒な真衣。生きる事も死ぬことも選べない宏は真衣と関わっていく中で、徐々に心が救われていく。
野口明人
…みたいな感じのあらすじ。
野口明人
この映画は病気を扱っているし、ネタバレすると面白くないと思うから、導入部分しか紹介出来ないけど、キャストがすごい豪華。
野口明人
モブ近いキャラに佐藤健を使うぐらい豪華。
野口明人
彼のセリフ「は?」だけだからね。
野口明人
大竹しのぶはすごく出番少ないけど宏の母親役で出てる。
野口明人
宮沢りえは拓人の母親として出てる。
野口明人
ほぼ存在しなくてもいいほどの看護師役にMEGUMI出てるし。
野口明人
そんな中で俳優デビューの野田洋次郎もほぼ無表情だけど、それがこの配役にピッタリでいい味が出てる。
野口明人
下手に演技うますぎないのが逆にピッタリなんだよなぁ。
野口明人
でも。でもね。そんな豪華な俳優陣と野田洋次郎に負けじと存在感を放っているのが、真衣役の杉咲花。
野口明人
NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の三女ね。
野口明人
彼女の事は、昔『その顔が見てみたい』っていうバラエティ番組で観て、可愛い子がいるなぁーとか思って調べてみると、なんとマクロス7の歌を歌っているチエ・カジウラが母親!
野口明人
マジか!と思い、更に調べると父親がレベッカのメンバー。
野口明人
うひょー!そして回鍋肉のCMで再び見かけ、忘れた頃にとと姉ちゃんでレギュラーになってて驚く。うお!毎朝観れるじゃん!って。
野口明人
ま、そんな感じだったけど、まさか野田洋次郎を辿って彼女の作品に巡り合うとは。
野口明人
杉咲花は昔スターダストプロモーションにいたらしいんだ。
野口明人
それで一旦芸能界辞めて、やっぱり女優になりたい。って思って憧れだった志田未来がいる研音に所属したんだけど、スタダと志田未来と聞くと僕は私立恵比寿中学の柏木ひなたを思い浮かべる。
野口明人
んで、この映画の中で思ったんだけど、柏木ひなたと杉咲花、すげー声が似てるの。
野口明人
しかも演技の仕方もすごく似てる。
野口明人
興味があれば「エクストラショットノンホイップキャラメルプディングマキアート」っていうエビ中の舞台を観てみてね。
野口明人
エビ中知らなくてもこの舞台は面白い。
野口明人
それとあれね、思い返してみれば『その顔が見てみたい』に出た時、私立恵比寿中学の廣田あいかも紹介されてたっていうね。
野口明人
チームしゃちほこの店長、長谷川さん出てたし。ま、全然関係ない話なんだけど。
野口明人
とにかくあれなんだ。この映画の彼女の存在感がすごい。
野口明人
演技うまー!ってなるし、引き込まれる。そしてラストワンシーンの彼女の顔と背景が妙に頭に残る。
野口明人
この映画、とにかく印象的なシーンが多く、洋次郎から電話かかってきた時の携帯画面の名前とか、プールで熱帯魚と泳ぐシーンとか。頭から離れないんだ。
野口明人
ストーリーもね、直球な、お涙頂戴シーンがなくて、全部事後報告てきな扱いで死を扱っている。
野口明人
闘病で苦しむ姿とかを全然描写していないから、本当にこれはガンを扱うテーマが必要だったのか?と聞かれれば疑問符が出るけど、それが逆にこの作品としては他の死を扱った作品とは一線を画していると思う。
野口明人
カメラワークも結構好みだし、トイレに描いた絵の見せ方や、途中でハンディカメラに切り替わる所が醸し出す味のあるシーンとか、この映画良い点が沢山見つかる。
野口明人
しかし、手塚治虫の看板を掲げてしまったが為に、反感を買う作品になってしまった。本当にもったいない。
野口明人
だからこそ、この映画は洋次郎も知らず手塚治虫の事もあまり知らない人に観てもらいたいと思うね。
野口明人
バックグラウンドとか全部持たずに。そしたら洋次郎の事も好きになるだろうし、観終わった後に、これって手塚治虫の手記をモチーフにしたのかー、じゃあアニメの「クミとチューリップ」の方も観てみよう!ってなると思う。
野口明人
逆は反感買うだけだけど、これを観て手塚治虫を嫌いになる人はいないだろうし、洋次郎の事も嫌いになる人もいないと思うんだよなー。
野口明人
それだけいい映画だと思うんだ。
野口明人
リリー・フランキーと洋次郎の会話とかも惹きつけられるものがあるし。
野口明人
恋愛要素がなくても、死にたくないのに死に向かう男と死にたいのに死ねない女子高生の対立で成り立ってて、二人のぶつかり合いに心をギュッと掴まれる。
野口明人
そのインパクトがデカいから、わざわざ恋愛ものとして売り出さなくても良かったかなぁとは思う。
野口明人
慈愛がテーマだから。恋というよりも愛だけを取り扱っても良かったかな。
野口明人
でもまぁ、恋愛ものとしてもね、よくありそうな二人の間柄じゃない感じがいいんだよね。
野口明人
世界の中心でなんかやってたり、今、会いにゆきそうな話とか、恋が宙に浮かんでる的なやつって基本、ラブラブで片方が病気だったり死んじゃう話だけど、この映画はそうじゃない。
野口明人
とにかくぎこちない関係で、二人の心に溜まったモヤモヤとか負の部分を相手にぶつけるんだよね。
野口明人
別に王道なのも嫌いじゃないし、観た時も号泣しちゃうと思うんだけど、この映画は号泣というよりもしんみり涙が流れてくる。
野口明人
前者の映画は第三者として二人の関係を眺めている感じだけど、この映画は二人の立場、第一人称でお互いの言葉が刺さってくる感じ。
野口明人
自分もきっと。自分もこうだ。“自分も”っていう共感性がすごく強い。
野口明人
うん。いい映画なんだ。だからさ、偏見を持たずに観て欲しい。ひとつの映画として。
野口明人
まぁ、ミュージシャンが俳優やる事に拒否反応起こす人もいるだろうし、この映画の中でもミュージシャンだからって威風堂々を歌わせたのはあからさますぎやしないか…?と僕も思ったけど。
野口明人
でもやっぱりミュージシャンの洋次郎だからこそ出来た雰囲気の映画だと思うんだ。エンディングの歌も含めて。
野口明人
そーだな。雰囲気的に『スワロウテイル』みたいな映画が好きなら、この映画が好きかもしれないな。
野口明人
取り扱っているテーマ全然違うけど。アゲハと真衣がなんとなく重なる。なんとなくね。あと歌手を俳優として起用したのも似てるし。
野口明人
ま、興味が湧いたら調べたりしてみてよ。出来れば映画を観てからレビューとか読んで欲しいけど。変な偏見持たないためにも。

…そんな事を『トイレのピエタ』について砂肝とハツでも頬張りながら焼き鳥屋で話すと思います。

『トイレのピエタ』の名言・心をざわつかせた言葉

大丈夫だって。落ちたって死ぬだけだから。

あのさ、いま一緒に死んじゃおうか?

抗がん剤の吐き気って妊婦のつわりに似てるんだってよ。産みの苦しみだね。

そもそも人間なんてさ、この地球上にいる必要ないんだよね。意味がない。役目もない。食物連鎖にも関係ないんだから。

お前さ、そんな顔して床拭いてんじゃねーよ。つまんなそうな顔して生きてんじゃねーよ。

ずっと応援してたんだけどな。素直に言えなくてすまんな。

世界ってさ、変わることなんかなくて、常におんなじ高さにあって、だから残酷なのよ。とっても。わかる?変わんの自分だけ。

なんかね、僕生きてますよ、今。うん。

『トイレのピエタ』のおすすめポイント

・心に残るシーンと心に刺さるセリフが多い映画。

・死を扱ったものだけれど、死を直接的に画面に映さず人の会話の中で扱う手法。人によって好き嫌いがわかれるかもしれないけど、The・王道な泣かせ映画が苦手な人には好まれるかもしれない。

・全体を包むダラーっとした雰囲気とその中で一人ピリッと山椒のように存在する杉咲花のコントラストが良い。

映画『トイレのピエタ』 – まとめ

結果から言うと、観てよかった。こんな映画に出会えて良かった。…と、思えるような映画ではあるんですが、どうしても手塚治虫の娘さんの件があるので、堂々と人には勧めにくいです。

もったいないなぁ。うん。本当にもったいない。

もし、この映画を手塚治虫が観たらどう思うだろう。

「パクられた上に、自分が描きたいアイディアと違う!」…なんて事は手塚治虫は言わないと思う。

でも病室で、なお作品を書き続けて、時間が足りなかった手塚治虫が、自分の表現したい事がたくさんあった手塚治虫が、自分のアイディアを利用して自分が意図したものと違うものが作られてしまったとしたらあまりいい心持ちではないのではないか?

…なんて要らんことをいつまでも推測してしまうんですよ。

本人にはもう聞けないけど、死を看取った娘さんが嫌な思いをしているのは事実なわけで。

たまにね、原作からかけ離れて作品を作られて、不満を漏らす原作者がいますけど、ああいうのを目にすると、なんで人を幸せにするために生まれた作品で原作者は悲しい思いをしなければならないんだと悲しくなるんですよね。

アイディアってパクろうと思えばパクれるし、改変しようとすれば改変出来てしまう。

一人で作品を作っているわけじゃないし、別のジャンルに展開するとなると、どうしても人の手を借りなければならなくはなるのですが、人の手を借りるとその人の意思が入ってきてしまう。

それで良しとする人もいるだろうし、それで更によい作品になるものだってある。

でもそれはもうすでに別の色になっちゃうし、その色からは元の色は作れない。

でもいつだって元の色が良かったと結論が出るのは混ぜ合わさった後の色を見てから。

そうなるとやっぱりマンガの実写化とか有名作品のリメイクでがっかりする事が多いのも考慮して、アイディアは本人しか使っちゃいけないと決めた方がいいのではないかな…。

でも、そうすると今回の『トイレのピエタ』には出会ってなかったわけだし。

これは難しい問題だ。考えても考えても答えが出てこない。

…ただ一つ言えるのは、監督は手塚治虫の大ファンであって欲しかった。決してファンではなくても、ファンではないと公言すべきではなかったと思うのです。

ではでは、そんな感じで『トイレのピエタ』のレビューでした。


トイレのピエタ - 感想・評価

トイレのピエタ
4.5

公開日:2015年06月06日
ジャンル:ヒューマンドラマ映画
監督:松永大司
出演:野田洋次郎, 杉咲花, リリー・フランキー

トイレのピエタ
  • ストーリー - 65%
    65%
  • キャラクター - 95%
    95%
  • 演出 - 80%
    80%
  • 映像 - 85%
    85%
  • 音楽 - 90%
    90%
83%

映画レビューまとめ

ぜひ野田洋次郎ファンじゃない方にも観てもらいたい映画。自分の生き方を見直したくなるような言葉がいっぱい。みんな個性が強い俳優さんばっかりなのに、このまとまり具合は監督の技量の賜物。そしてやはり杉咲花の演技と目で訴えてくる何かが圧巻。この一年後に彼女は日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞と新人俳優賞を取ります。

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