あるいは裏切りという名の犬という映画をご存じでしょうか。2004年公開のフランス映画なのですが、なんともおしゃれなタイトルではないですか。
洋画の邦題の付け方は『バス男』だったり『26世紀青年』だったりとセンスのかけらもないものが多い気がしますが、『あるいは裏切りという名の犬』というタイトル。
なかなかイイ!ひさびさに天才現る…って感じがしました。
『36 Quai des Orfevres(オルフェーヴル河岸36番地)』という元の原題はフランスに住む人にしかピンとこないパリ警視庁の所在地。
それを『あるいは裏切りという名の犬』というタイトルに変化させる感じ。
バスに乗っているシーンがあっただけの『バス男』などとは意味が違います。内容もちゃんと考慮した上で更にタイトルで映画を観たくさせる付け方。
こりゃー、このタイトルを考えついた時、きっとニヤリとしたでしょう。
このタイトルじゃなかったらきっと僕は観なかったでしょうし、観た後もこのタイトルひとつで色々と考察が楽しかった映画だったので、もうね、天才でした。
これぞコピーライターの仕事!
…なんて、初っ端からタイトルにばっかり目を向けてしまいましたが、この映画、中身もなかなかに濃いですよ。
クソ野郎がいい味出しています。
ということで、映画『あるいは裏切りという名の犬』のレビューをしていくことにしましょう。
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10秒でわかる『あるいは裏切りという名の犬』のストーリーのまとめ
公開日:2004年11月24日
ジャンル:アクション映画, 犯罪映画, ヒューマンドラマ映画
監督:オリヴィエ・マルシャル
出演:ダニエル・オートゥイユ, ジェラール・ドパルデュー, アンドレ・デュソリエ
かつては一人の同じ女性を愛し、友人だった二人が次期パリ警視庁長官の座を巡って争い合う。やり方も性格も違うヴリンクスとクラン。現長官が推しているのはヴリンクスだった。焦ったクランは犯罪グループ追跡中に暴走。ヴリンクスの仲間を死なせてしまう。警察内は誰もがクランを憎み嫌ったがひとつの情報が状況を変える。殺人の共犯の罪で逮捕されてしまったヴリンクスだったが、それは転落劇のスタートでしかなかった…
もし、あなたに和食屋で『あるいは裏切りという名の犬』ってどんな映画?あらすじとか評判は?と聞かれたなら…
この映画は一言で言えば、“情報がカギを持つ人間の哀れさを映した映画”なんだ。
「犬」っていうのは警察に情報を持ってくる情報屋の事。
1980年代に実際にフランスで起きた事件を基にした刑事ドラマで、フランス映画。
『アメリ』もそうだけど、フランスの映画ってなかなか独特な雰囲気を持っているよね。
予告とか観たならわかるんだけど、設定ではかつて親友で、同じ女性を愛した二人…って事なんだけど、正直一回観ただけではそのことに気が付かなかった。
親友だった頃のシーンが出てくるわけでもないし、若かりし頃の二人、愛した女性との恋愛シーンが出てくるわけでもないから、その設定だけは頭に入れておいた方がいいかもしれない。
二回、三回と繰り返し観た時に、あぁ。確かにセリフの中でそう捉えられる言葉あるわーって感じ。
ま、とにかくさ、かつては親友だった二人、ヴリンクスとクランの対立の物語ってのが主軸だね。
二人は同じパリ警視庁に勤めていながらも、別々のグループで対立しあっている。
仲間を大事にする探索出動班リーダーのヴリンクスと権力を大事にする強盗鎮圧班リーダーのクラン。
性格も捜査スタイルもバラバラ。協力しているフリして水面下ではバチバチやっているわけだ。
現金輸送車を襲う連続強盗事件。被害総額200万ユーロ・死者9名。
お金は盗まれるわ、殺されるわで、かなり凶悪犯罪なのに、逮捕につながる糸口がない。
もうそろそろ席を開ける現パリ警視庁長官はヴリンクスとクランに檄を飛ばす。
そしてヴリンクスを別室に呼んで、この事件を挙げた方に後任を任せようと思っている事、出来ればヴリンクスにお願いしたい事を告げる。
ヴリンクスが部屋に呼ばれるのを見ていたクランは話の内容を想像し焦った。
そしてこの事件は自分に指揮権をくれと直談判してみたが、ヴリンクスの援護にまわれと言われてしまう。
なんでやねん!この仕事は俺のすべてなんだ!と飲んだくれるクラン。
とある筋から犯人グループの居場所を突き止めたヴリンクスは仲間を連れ、作戦を伝える。
そんな時もポケットに入れたお酒でベロンベロンのクランは、ヴリンクスの作戦を無視し、手柄は俺のものだと犯人に襲いかかる。
警察の存在に気がついた犯人グループは銃をぶっ放し、クランはそれをもろに食らう。そしてそれを皮切りに銃撃戦が始まってしまう。
クランの部下が人質にとられ、こちらは何も出来ない。
ヴリンクスの良き理解者であったエディは、交渉を試みたが虚しくも散ってしまう。頭を撃たれて即死。犯人グループは逃亡。
ヴリンクスは動かなくなったエディを抱えながら遠くを見つめる。
そこには防弾チョッキの恩恵に預かりムクリと起き上がったクランがいた。
この事件後、クランは部下から嫌われ、肩身の狭い思いをしたが、とある筋から起死回生の情報を手に入れる。
それはヴリンクスが殺人事件の共犯だという証言だった。あいつがいなくなれば、上は俺を選ばざるを得なくなる。クランはなんの躊躇もなくヴリンクスを売った。
ヴリンクスは共犯の罪で逮捕されてしまう。
しかも運の悪いことに担当した裁判官は警察嫌い。妻との面会も許されず、毎日通い続ける妻はヴリンクスに会えず徐々に疲労していく。
そんな中、クランはここぞとばかりにヴリンクスの妻にコンタクトを試みる。ほれ、過去に同じ女性を愛したって設定がここで効いてくるわけだね。
しかし、ヴリンクスと妻の絆はそんなものじゃ壊れない。
冷たくされたクランは、ある事を思いつき、仕事の話を持ちかけるのだった…。
ま、ネタバレしても面白くないだろうから、さらりと途中までのあらすじを紹介するとこんな感じかな。
ここから更にヴリンクスがどうしようもなく落ちぶれていき、クランが上り詰めていくっていう感じになるからさ、観ていてもう、プンスカプンスカ言いたくなったね。
実話を元に作ったっていうからさ「マジでこんな事あるのかよ!もう!」ってイライラしてた。
クランの野郎がもう、どうしようもなくクソ人間なんだ。
もちろんヴリンクスも警察官としてどうなの?って感じだからどちらが警視庁長官になっても、フランスの警察って怖いな…って感じではあるんだけど、それを差し引いてもクランが圧勝で、どうもありがとうございました!って感じ。
徹底的にクズ人間で憎まれるように撮られていて、もう感情移入しまくり。
こいつ、マジなんなの!キィーーーーー!腹立つわー!とか、独り言を言ってしまうほど。
そのクソ具合が増す状況をクランの「食事のシーン」で伝えてくれているのもこの映画の面白い所。
人の食事の仕方、食べる時の音、食べるもので、こうも人柄を表すものなのだなと感心してしまった。ちょいちょい出てくるんだよ、クランが何かを口に運ぶシーンが。
それによって彼の現在の立ち位置や心境がわかるっていうね。
このクソクランの悪役っぷりもこの映画を盛り上げる要素だけど、もうひとつには全体を流れる渋い雰囲気や耳に残る音楽がイイんだよね。
観ていてイライラする感情と、その心に沁みてくるムードやミュージック。突然ぶつけられる悲劇やショッキングな出来事。
もうね、僕の喜怒哀楽を一体どうしたいの?ってぐらいグラグラ揺らしてくる。
わかりやすい言葉で言えばハードボイルド。
映画を観終わった後の疲労感と、大がかりなアクションはなかったのに、頭の中に残るイメージの強さ。かっこいい。
『あるいは裏切りという名の犬』一瞬では理解出来ない感じの、何が言いたいんだよ!って思うネーミングセンスね。
「あるいは」という部分は抜きにして、「裏切りという名の犬」に注目すると、警察の物語だからね、犬ってのは情報屋の事なんだが、総じて情報を流す事を指すわけだ。
ある人間がある人間を恨んで、裏切って復讐する。するとその復讐がさらなる復讐を生む。ずっとずっとそのループ。
その復讐のきっかけ、裏切りのきっかけとなるのはほとんど情報なわけだ。情報ひとつで逮捕されたり殺されたりなんやかんやする。
でも、この映画の中でひとりだけ情報を垂れ流さずに復讐のループを打ち切った人間がいる。
それが「あるいは」という言葉に込められているんじゃないかな…なんてそれっぽい事を考えてみたけど、実際は全然意味を理解してない。
でもあれじゃん?こういうタイトルをつけていたからこそこうやって映画を観て、映画のタイトルについて考えてみたりして楽しめるわけだから、このタイトルは正解だと僕は思うよ。
結構、賛否両論だけどさ。『オルフェーヴル河岸36番地』って映画観たいと思う?
ま、興味が湧いたら調べてみてよ。ネットにもかなりレビュー上がっている作品だし、「あと一本、何か映画借りたいんだけどどれ借りようかな~」と迷ったら、とりあえずこんな作品があったぞと頭に入れておいても損はしないと思うな。
…そんな事を『あるいは裏切りという名の犬』について韃靼そば茶を飲みながら和食屋で話すと思います。
『あるいは裏切りという名の犬』の名言・心をざわつかせた言葉
俺は“犬”じゃない。よそで聞くんだな。
「なぜ仕事の話をしないの?」「君を失いたくないから」
上層部はオールドミスと同じ。刺激を嫌う。
「真実は1つです」「何の書類だ?」「全員の転属願いです。クランか我々か。あなた次第だ」
オルン、なぜ殺さなかったと思う?死は一度きりだ。じっと待つんだな。独房の中で言い知れぬ恐怖と孤独に耐えかねて気が狂うまで。
「他に方法がなかった。あなたが俺なら?」「私は君ではない」
裏社会で君のような男は駐車場で死ぬ。
いつか亡霊があなたを迎えに来る。卑劣な行為のツケを払うがいい。
「なぜ“面会に来るな”と言ったの?」「怖かったんだ」「何が?」「帰っていく後ろ姿を見るのが」
死者はもう戻らない。振り返るな。頭が吹っ飛ぶのを鏡で見ろ。
『あるいは裏切りという名の犬』で心に残ったシーン・実況
- 0:05:50頃
女性の顔が悲惨過ぎる…。何もここまでボコボコに殴らなくても。
- 0:18:30頃
全裸にして、手錠かけて、顔の横で拳銃撃って、穴に落とす。やり方がもう、悪者ですやん。警察の手口じゃないですやん…。こわぁ…。フランス警察こわぁ…。
- 0:22:20頃
さっきから衝撃的過ぎるシーンが多いんだが…。パンツ一丁で敵を道連れに3〜4階から飛び降りたぞ。突然過ぎてドキドキが収まらない。
- 0:27:40頃
ヴリンクスがキレるのはごもっとも過ぎて笑ってしまった。
- 0:32:20頃
ここの父ヴリンクスと娘ローラの朝のやり取りが素敵。
- 0:44:30頃
思ったよりライバルのクランが酔っぱらいで自己中のダメ人間過ぎて草生える。こんなやつがのちの警視庁長官になるつもりだとは…。…というか、笑っている場合じゃなかった。思ったよりシリアスな修羅場。
- 0:46:30頃
エディーーーーーー!!!うわああ。一番いい人そうだったのに…。このシーン、やばい。自己中クソライバル、クランのせいで死んだエディ。エディを抱きながらクランを見つめるヴリンクス。心の葛藤が伝わってくる。
- 1:02:00頃
うおおお!!汚ねぇ…。畜生、マジこいつ嫌いだわ。クランのやつ、自分の事を上げるよりも人を落とす方を選びやがった…。畜生!
- 1:19:00頃
うああぁぁ…マジでクランなんなんだよ。本当になんなんだよこいつ。
- 1:22:30頃
ローラとヴリンクスのやり取りも切ないが、それを見つめるティティの眼差しも切ない…。
- 1:33:40頃
ローラがこんなに大きくなっている…。7年の歳月というのは長いものなんだな。それでも親子の絆は変わらない、こんな感じの関係、すごく理想的だ。ローラも辛かっただろうに、それをおくびにも出さない感じが本当に偉い。
- 1:37:55頃
残り15分切ったというのに、まだ不幸な事が起こり続けるのか…。もう心がズタズタだよ、僕は。
- 1:43:50頃
マジでこの映画の中で一番しびれるシーンだったわ。1発目をしくじっても、弾はまだ13発ある。テクテクテクテク…。くうー、たまらん。
- 1:46:20頃
ここで新聞を買わないって所もいいよね。アメだけってのがニンマリする。そしてそれを渡す相手がいて本当に良かったよ。なんだかんだでハッピーエンドになってくれて良かった。爽やかに終わってくれただけで、おじさんはもう満足だよ。うんうん。
『あるいは裏切りという名の犬』は↓こんな作品や世界観が好きなあなたにおすすめ。この映画を観ている時にパッと思い浮かんだ映画・小説・漫画・アニメ・テレビドラマ、または音楽など
制作:サンライズ
監督:渡辺信一郎
放送期間:1998年10月 – 1999年04月
話数:全26話
ハードボイルドで復讐劇。そんなイメージで頭に浮かんできたのはアニメのカウボーイビバップ。クランのようなクソ野郎は出てこないし、エドは可愛いし、全然別物な気はするけど、ジェットとかおっさん系が好きだったらイケるんじゃないかなと思います。
『あるいは裏切りという名の犬』のような映画が好きなあなたに、ぜひ次に観て欲しい映画はズバリ…
公開日:1997年09月19日
ジャンル:犯罪映画, ヒューマンドラマ映画, ミステリー映画
監督:カーティス・ハンソン
出演:ケヴィン・スペイシー, ラッセル・クロウ, ガイ・ピアース
フランス映画じゃ全く思いつかなかったので、アメリカ映画の『L.A.コンフィデンシャル』で。むっちゃイヤなやつ出てくるつながりです。
『あるいは裏切りという名の犬』まとめ
このヴリンクス役を演じたダニエル・オートゥイユは主にコメディーのイメージが強い俳優さんらしいんですが、そんな事全く連想出来ないぐらい、渋カッコよく仕上がっております。
若干奥さんとイチャイチャし過ぎかなって思ったりもしたけど、まぁ、設定的にクランと一人の女性を争って勝ち得た奥さんなわけで、ラブラブなのは仕方がないっすね。
…僕はどちらかというと、クランの奥さんの悲壮感漂う美人さの方が好きなんですがね。
色々と心をかき乱されましたが、心温まるシーンもそれなりにあって、ヴリンクスと娘ローラのやり取りは本当に微笑ましいです。こんな家族が実際にいたらいいなぁ…。
えー、まとめとして不満がない映画というわけではありませんが、それなりに友達に勧めても面白いと思ってもらえる映画だと思います。
観るものがなくて困ったりしたらこの作品を思い出してみてくださいませ。ではでは『あるいは裏切りという名の犬』でした。
あるいは裏切りという名の犬 - 感想・評価
公開日:2004年11月24日
ジャンル:アクション映画, 犯罪映画, ヒューマンドラマ映画
監督:オリヴィエ・マルシャル
出演:ダニエル・オートゥイユ, ジェラール・ドパルデュー, アンドレ・デュソリエ
あるいは裏切りという名の犬
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ストーリー - 69%
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キャラクター - 79%
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演出 - 76%
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映像 - 81%
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音楽 - 84%
78%
映画レビューまとめ
まぁ、ラストの決着の付け方があまりにもあっさり行き過ぎている気もするので、尻すぼみ感は否めませんが、キャラクターはいい意味でも悪い意味でも印象に残るし、映像もフランス映画らしさが出ていて雰囲気がよいです。音楽も耳に残る良い作品。時間を空けて何度も観て楽しめる作品のひとつだと思う。いぶし銀だね。