トイレのピエタ - 映画情報
- 公開:2015/06/06
- 監督:松永大司
- 出演者:野田洋次郎, 杉咲花, リリー・フランキー
- 製作国:日本
- 上映時間:2時間
MOVIE REVIEWS
トイレのピエタという映画をご存じでしょうか?2015年に公開された邦画ですが、RADWIMPSのボーカル野田洋次郎が主演として俳優デビューし、日本アカデミー賞の新人賞を取った作品です。
ちなみに、トイレのピエタというのは1989年に手塚治虫が死ぬ前に書いた最後の作品、最後の文章、日記でして、手塚治虫のファンでもない松永大司監督がインスピレーションを得たとして作ったのがこの映画なんですよね。
タイトルまでそのまま使ってしまって…。
手塚治虫の娘さんの手塚るみ子さんが試写会後に酷評したこととしても有名でして、故人を思うとなんとなく気がひけて観ていいものかと迷っていました。
現に某レビューサイトでは洋次郎信者の高評価と手塚治虫ファンの低評価がバチバチしている作品でして。
それでも2011年ぐらいから応援していた杉咲花が出てるというので、おそるおそる観てみると洋次郎とか手塚治虫とか抜きにして、その存在感は圧巻でした…。
ということで、色々と触れることのある映画『トイレのピエタ』のレビューをしていくことにしましょう。
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映画『トイレのピエタ』 – ストーリー
公開日:2015年06月06日
ジャンル:ヒューマンドラマ映画
監督:松永大司
出演:野田洋次郎, 杉咲花, リリー・フランキー
才能を持ちながらも絵を描くことを辞めてしまった美大卒の園田宏。突然倒れ、医者から胃がんで余命3ヶ月だと宣告される。現実を受け入れられない彼は、荒れ狂う女子高生、宮田真衣と出会い「今から一緒に死んじゃおうか?」と誘われる。夢を諦めてただやり過ごすだけだった生活に突然忍び寄ってきた死の恐怖。生きる事も死ぬことも選択出来ない彼を救ったのは…
もし、あなたに焼き鳥屋で『トイレのピエタ』ってどんな映画?あらすじは?と聞かれたなら…
この映画は一言で言えば、“死と慈悲の映画”なんだ。
“ピエタ”ってのがイタリア語で哀れみとか慈悲って意味で、聖母子像のうち、「死んで十字架から降ろされたキリストを抱くマリアの彫刻や絵」の事をピエタって呼ぶんだね。
サン・ピエトロ大聖堂にあるミケランジェロのピエタが有名なんだそうだ。
手塚治虫は亡くなる約2年前、奥さんとともにイタリアにいってシスティーナ礼拝堂でミケランジェロが寝転びながら描いたという天井画を見た。
そしてサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂でミケランジェロが作ったピエタを見た。
それが記憶に強く残っていたんだろうね。死ぬ直前に書いた日記の最後のページにこんな事が書いてある。
一九八九年一月一五日
今日はすばらしいアイディアを思いついた!トイレのピエタというのはどうだろう。
癌の宣告を受けた患者が、何一つやれないままに死んで行くのはばかげていると、入院室のトイレに天井画を描き出すのだ。
周辺はびっくりしてカンバスを搬入しようと するのだが、件の男は、どうしても神が自分をあそこに描けという啓示を、 便器の上に使命されたといってきかない。
彼はミケランジェロさながらに寝ころびながらフレスコ画を描き始める。 彼の作業はミケランジェロさながらにすごい迫力を産む。 傑作といえるほどの作品になる。 日本や他国のTVからも取材がくる。
彼はなぜこうまでしてピエタにこだわったのか?これがこの作品のテーマになる。
浄化と昇天。これがこの死にかけた人間の世界への挑戦だったのだ!
引用:「トイレのピエタ」(2017年04月17日(月) 14:30 UTC)
『ウィキペディア日本語版』
この手記を見て、監督の松永大司がオリジナルストーリーを書いたのが、今回の映画『トイレのピエタ』。
手塚プロダクションはこの手記から「クミとチューリップ」というアニメを制作しているし、全くの別物。
しかしタイトルに『トイレのピエタ』を使ってしまったので、どうしても手塚治虫ファンの人は手塚治虫のカラーを想像するし、実際に観てみると想像していたものでは無いものを提示されるので、映画自体の出来不出来ではなく、手塚作品としてどうなのかで判断されてしまう。
もし、これがタイトルが別のもので、手塚治虫とは全く無関係のものとして発表されていたならここまで評価が割れなかっただろうけど、逆に観てくれる人も少なかったかもしれない。
だから一概に悪いとは言えないんだけど、でもやっぱり手塚治虫の看板を掲げなければもっと評価されていただろうに…と思ってしまうよ。
さて、ごたくはこのぐらいにして、あらすじをちょろっと。
才能がありながらも夢を諦めた美大卒の園田宏。彼を演じているのがRADWIMPSのボーカルの野田洋次郎。
宏はビルの窓拭きをしながら何の目的もない日々を過ごしていた。
しかし、胃がんが見つかり医者から余命3ヶ月だと告げられる。現実を受け入れられない宏。
病院で偶然居合わせた女子高生、宮田真衣はそんな彼に「今から一緒に死んじゃおうか?」と誘う。
宏は真衣をバイクの後ろに乗せ、アクセルをひねり加速するが思い直し真衣を家に返す。
不満そうに帰る真衣。宏は倒れてしまい病院に入院する。
抗がん剤治療の副作用で吐き気に苦しむ宏は病院を脱走し、元の生活に戻ろうとするが、職場にはすでに新人が雇われ、職場でも副作用による下痢に苦しみ居場所をなくす。
同室の横田とは話が合わず、自分に懐いてきた子供の拓人には冷たくしてしまう。横田はリリー・フランキーね。
病院の患者はみんな、がん患者にも関わらず明るい。
酷く傷つけてしまった拓人さえ、明るく宏に接してくれる。
せめてもの償いのために宏は真衣を病院に呼び出し、拓人が好きなヒーローの本を買って来てもらった。
そしてヒーローをノートいっぱいに模写して拓人にプレゼントする。
それがきっかけに真衣は度々宏に会いに来る。
破天荒な真衣。生きる事も死ぬことも選べない宏は真衣と関わっていく中で、徐々に心が救われていく。
この映画は病気を扱っているし、ネタバレすると面白くないと思うから、導入部分しか紹介出来ないけど、キャストがすごい豪華。
モブ近いキャラに佐藤健を使うぐらい豪華。
大竹しのぶはすごく出番少ないけど宏の母親役で出てる。
ほぼ存在しなくてもいいほどの看護師役にMEGUMI出てるし。
そんな中で俳優デビューの野田洋次郎もほぼ無表情だけど、それがこの配役にピッタリでいい味が出てる。
下手に演技うますぎないのが逆にピッタリなんだよなぁ。
でも。でもね。そんな豪華な俳優陣と野田洋次郎に負けじと存在感を放っているのが、真衣役の杉咲花。
NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』の三女ね。
彼女の事は、昔『その顔が見てみたい』っていうバラエティ番組で観て、可愛い子がいるなぁーとか思って調べてみると、なんとマクロス7の歌を歌っているチエ・カジウラが母親!
マジか!と思い、更に調べると父親がレベッカのメンバー。
うひょー!そして回鍋肉のCMで再び見かけ、忘れた頃にとと姉ちゃんでレギュラーになってて驚く。うお!毎朝観れるじゃん!って。
ま、そんな感じだったけど、まさか野田洋次郎を辿って彼女の作品に巡り合うとは。
杉咲花は昔スターダストプロモーションにいたらしいんだ。
それで一旦芸能界辞めて、やっぱり女優になりたい。って思って憧れだった志田未来がいる研音に所属したんだけど、スタダと志田未来と聞くと僕は私立恵比寿中学の柏木ひなたを思い浮かべる。
んで、この映画の中で思ったんだけど、柏木ひなたと杉咲花、すげー声が似てるの。
それとあれね、思い返してみれば『その顔が見てみたい』に出た時、私立恵比寿中学の廣田あいかも紹介されてたっていうね。
チームしゃちほこの店長、長谷川さん出てたし。ま、全然関係ない話なんだけど。
とにかくあれなんだ。この映画の彼女の存在感がすごい。
演技うまー!ってなるし、引き込まれる。そしてラストワンシーンの彼女の顔と背景が妙に頭に残る。
この映画、とにかく印象的なシーンが多く、洋次郎から電話かかってきた時の携帯画面の名前とか、プールで熱帯魚と泳ぐシーンとか。頭から離れないんだ。
ストーリーもね、直球な、お涙頂戴シーンがなくて、全部事後報告てきな扱いで死を扱っている。
闘病で苦しむ姿とかを全然描写していないから、本当にこれはガンを扱うテーマが必要だったのか?と聞かれれば疑問符が出るけど、それが逆にこの作品としては他の死を扱った作品とは一線を画していると思う。
カメラワークも結構好みだし、トイレに描いた絵の見せ方や、途中でハンディカメラに切り替わる所が醸し出す味のあるシーンとか、この映画良い点が沢山見つかる。
しかし、手塚治虫の看板を掲げてしまったが為に、反感を買う作品になってしまった。本当にもったいない。
だからこそ、この映画は洋次郎も知らず手塚治虫の事もあまり知らない人に観てもらいたいと思うね。
バックグラウンドとか全部持たずに。そしたら洋次郎の事も好きになるだろうし、観終わった後に、これって手塚治虫の手記をモチーフにしたのかー、じゃあアニメの「クミとチューリップ」の方も観てみよう!ってなると思う。
逆は反感買うだけだけど、これを観て手塚治虫を嫌いになる人はいないだろうし、洋次郎の事も嫌いになる人もいないと思うんだよなー。
リリー・フランキーと洋次郎の会話とかも惹きつけられるものがあるし。
恋愛要素がなくても、死にたくないのに死に向かう男と死にたいのに死ねない女子高生の対立で成り立ってて、二人のぶつかり合いに心をギュッと掴まれる。
そのインパクトがデカいから、わざわざ恋愛ものとして売り出さなくても良かったかなぁとは思う。
慈愛がテーマだから。恋というよりも愛だけを取り扱っても良かったかな。
でもまぁ、恋愛ものとしてもね、よくありそうな二人の間柄じゃない感じがいいんだよね。
世界の中心でなんかやってたり、今、会いにゆきそうな話とか、恋が宙に浮かんでる的なやつって基本、ラブラブで片方が病気だったり死んじゃう話だけど、この映画はそうじゃない。
とにかくぎこちない関係で、二人の心に溜まったモヤモヤとか負の部分を相手にぶつけるんだよね。
別に王道なのも嫌いじゃないし、観た時も号泣しちゃうと思うんだけど、この映画は号泣というよりもしんみり涙が流れてくる。
前者の映画は第三者として二人の関係を眺めている感じだけど、この映画は二人の立場、第一人称でお互いの言葉が刺さってくる感じ。
自分もきっと。自分もこうだ。“自分も”っていう共感性がすごく強い。
うん。いい映画なんだ。だからさ、偏見を持たずに観て欲しい。ひとつの映画として。
まぁ、ミュージシャンが俳優やる事に拒否反応起こす人もいるだろうし、この映画の中でもミュージシャンだからって威風堂々を歌わせたのはあからさますぎやしないか…?と僕も思ったけど。
でもやっぱりミュージシャンの洋次郎だからこそ出来た雰囲気の映画だと思うんだ。エンディングの歌も含めて。
そーだな。雰囲気的に『
スワロウテイル』みたいな映画が好きなら、この映画が好きかもしれないな。
取り扱っているテーマ全然違うけど。アゲハと真衣がなんとなく重なる。なんとなくね。あと歌手を俳優として起用したのも似てるし。
ま、興味が湧いたら調べたりしてみてよ。出来れば映画を観てからレビューとか読んで欲しいけど。変な偏見持たないためにも。
…そんな事を『トイレのピエタ』について砂肝とハツでも頬張りながら焼き鳥屋で話すと思います。
『トイレのピエタ』の名言・心をざわつかせた言葉
大丈夫だって。落ちたって死ぬだけだから。
あのさ、いま一緒に死んじゃおうか?
抗がん剤の吐き気って妊婦のつわりに似てるんだってよ。産みの苦しみだね。
そもそも人間なんてさ、この地球上にいる必要ないんだよね。意味がない。役目もない。食物連鎖にも関係ないんだから。
お前さ、そんな顔して床拭いてんじゃねーよ。つまんなそうな顔して生きてんじゃねーよ。
ずっと応援してたんだけどな。素直に言えなくてすまんな。
世界ってさ、変わることなんかなくて、常におんなじ高さにあって、だから残酷なのよ。とっても。わかる?変わんの自分だけ。
なんかね、僕生きてますよ、今。うん。
『トイレのピエタ』のおすすめポイント
・心に残るシーンと心に刺さるセリフが多い映画。
・死を扱ったものだけれど、死を直接的に画面に映さず人の会話の中で扱う手法。人によって好き嫌いがわかれるかもしれないけど、The・王道な泣かせ映画が苦手な人には好まれるかもしれない。
・全体を包むダラーっとした雰囲気とその中で一人ピリッと山椒のように存在する杉咲花のコントラストが良い。
映画『トイレのピエタ』 – まとめ
結果から言うと、観てよかった。こんな映画に出会えて良かった。…と、思えるような映画ではあるんですが、どうしても手塚治虫の娘さんの件があるので、堂々と人には勧めにくいです。
もったいないなぁ。うん。本当にもったいない。
もし、この映画を手塚治虫が観たらどう思うだろう。
「パクられた上に、自分が描きたいアイディアと違う!」…なんて事は手塚治虫は言わないと思う。
でも病室で、なお作品を書き続けて、時間が足りなかった手塚治虫が、自分の表現したい事がたくさんあった手塚治虫が、自分のアイディアを利用して自分が意図したものと違うものが作られてしまったとしたらあまりいい心持ちではないのではないか?
…なんて要らんことをいつまでも推測してしまうんですよ。
本人にはもう聞けないけど、死を看取った娘さんが嫌な思いをしているのは事実なわけで。
たまにね、原作からかけ離れて作品を作られて、不満を漏らす原作者がいますけど、ああいうのを目にすると、なんで人を幸せにするために生まれた作品で原作者は悲しい思いをしなければならないんだと悲しくなるんですよね。
アイディアってパクろうと思えばパクれるし、改変しようとすれば改変出来てしまう。
一人で作品を作っているわけじゃないし、別のジャンルに展開するとなると、どうしても人の手を借りなければならなくはなるのですが、人の手を借りるとその人の意思が入ってきてしまう。
それで良しとする人もいるだろうし、それで更によい作品になるものだってある。
でもそれはもうすでに別の色になっちゃうし、その色からは元の色は作れない。
でもいつだって元の色が良かったと結論が出るのは混ぜ合わさった後の色を見てから。
そうなるとやっぱりマンガの実写化とか有名作品のリメイクでがっかりする事が多いのも考慮して、アイディアは本人しか使っちゃいけないと決めた方がいいのではないかな…。
でも、そうすると今回の『トイレのピエタ』には出会ってなかったわけだし。
これは難しい問題だ。考えても考えても答えが出てこない。
…ただ一つ言えるのは、監督は手塚治虫の大ファンであって欲しかった。決してファンではなくても、ファンではないと公言すべきではなかったと思うのです。
ではでは、そんな感じで『トイレのピエタ』のレビューでした。
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トイレのピエタ - 感想・評価
公開日:2015年06月06日
ジャンル:ヒューマンドラマ映画
監督:松永大司
出演:野田洋次郎, 杉咲花, リリー・フランキー
トイレのピエタ
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ストーリー - 65%
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キャラクター - 95%
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演出 - 80%
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映像 - 85%
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音楽 - 90%
83%
映画レビューまとめ
ぜひ野田洋次郎ファンじゃない方にも観てもらいたい映画。自分の生き方を見直したくなるような言葉がいっぱい。みんな個性が強い俳優さんばっかりなのに、このまとまり具合は監督の技量の賜物。そしてやはり杉咲花の演技と目で訴えてくる何かが圧巻。この一年後に彼女は日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞と新人俳優賞を取ります。